コラム

2022.06.30

「もしかして依存症…」~ご自身や周りの人のことで心配になったときにできること~

こんにちは大阪市城東区鴫野駅から1分「けいクリニック」院長、精神科専門医の山下圭一です。

ニコチン依存症、アルコール依存症、ギャンブル依存症、という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。最近では、“インターネット依存症”なる概念も見聞きするようになりました(実は診断基準上は、確定したものではありません)。
お酒、タバコ、カフェイン、インターネット、ギャンブル、等々、人間の“依存してしまう傾向”をターゲットにして売られているものが、世の中にはたくさんあります。その種類のぶんだけ、依存のかたちがあると言えるかもしれません。

“依存症”というと、お酒に酔って暴力をふるう人、ギャンブルで借金をしてしまう人、といったイメージがあるかもしれませんが、その本質は“コントロールを失う慢性疾患[i]”です。
“依存症”というと身近に感じられない方も多いかもしれませんが、カフェインやニコチン(タバコ)がないとやっていけない人、というのは、身の回りにお一人はいらっしゃるのではないでしょうか。
何かに“依存する”ことは、人間の習性の一つですし、それがイコール病気というわけではありません。ただ、昼夜逆転など生活が乱れたり、仕事や学校に行けないなど社会生活に影響が出たりすると、困りごとが膨れ上がりますので、早めに気づいて減らす/止めることで、身体や社会生活に悪い影響が出ることを減らすことができます。

お一人で困らないように、依存しやすい物質や行動/行為について知り、困った時にどこに相談すればよいのか、どのような治療法があるかについて、ぜひ知っておいてもらいたいと思います。

<目次>

  • 1.依存症と使用障害
  • 2.依存症/使用障害になりやすい人ってどんな人?
  • 3.依存症/使用障害の相談はどこにすればよいの?
  • 4.診断のためにどんな検査をするの?
  • 5.依存症/使用障害の治療のこと
  • 6.まとめ

 

 

  • 1.依存症と使用障害

 

依存症とは、アルコールや薬物などの特定の物質や、ギャンブルなどの特定の行動への、コントロールが効かなくなる病気です。

依存症には、物質に依存する場合と、行動/行為に依存する場合があります。

“依存症”という言葉ではなく、“使用障害”という言葉を使いましょうという流れもあります。依存かどうかに関わらず、問題が起きているならばなんとかしよう、という取り組みです。

依存を形成しやすい物質として、有名なのはアルコールですが、たばこはれっきとした“ニコチン依存症”の原因ですし、最近では、エナジードリンク人気による“カフェイン依存症”、処方薬依存(抗不安薬や睡眠薬、特にベンゾジアゼピン系と呼ばれるもの)も問題になっています。

日本では海外ほど多くはありませんが、大麻や幻覚剤、シンナーなどの有機溶剤、オピオイドや中枢刺激薬への依存が社会問題になっている国もあります。

その他にも、アルコールやタバコであれば肝機能障害やがんなどの身体のご病気、家族や友人ともめるなどの人間関係の問題、仕事上の問題、借金など金銭的な問題、など、人生のあらゆる面に影響が起こりえます。

 

  • 2.依存症/使用障害になりやすい人ってどんな人?

 

依存症/使用障害の原因は、一つだけではなく、生物学的要因、環境要因、心理社会的要因、臨床の要因、と複数が複雑にからみあっていることがほとんどです。

タバコやお酒に依存しているように見えても、何かのきっかけにすっぱりやめられる人がいます。一方で、止めようと思ってもなかなかやめられない、やめてもまた再開してしまう、という方もあります。このように、依存症になりやすい人、なりにくい人、というのはあるようです。
なかなかやめられない人は、傾向が出やすい生物学的要因を持っているのかもしれませんし、安心・安全を感じにくい環境で育ったという背景があるかもしれません。うつ病や発達障害などのご病気があるつらさを、物質や行動によってやわらげている(自己治療)という側面があるのかもしれません。

脳化学的には、依存のメカニズムとして、報酬系という脳の神経回路と、ドーパミンなどの神経伝達物質が関わっているとされています。

報酬系は、ある行動によって楽しい/心地よい体験が得られたときに、その行動を学習するのに役立ちます。再び同じような行動を行うように、行動が強化されるのですね。これに関わるのがドーパミンです。ドーパミン以外にも、関連する神経伝達物質があります。
楽しい体験として学習されると、報酬系はその行動を再び行うことを促し、その行動によって楽しさを感じると、また活性化されてしまうのです。

このように、報酬系が快を引き起こす刺激(アルコールやギャンブルなど)を経験として学習すると、依存が形成されてしまいます。

 

  • 3.依存症/使用障害の相談はどこにすればよいの?

 

まず、眠れない、やる気が出ない、気分が落ち込む、などの症状がある場合は、メンタルクリニックへの受診をおすすめします。「依存症だから」ではなく、目の前で起こっている困りごとを解決するために、相談しましょう。

また、「禁酒を続けるための相談相手が欲しい」「ギャンブルをしないように頑張っている仲間が欲しい」という場合は、自助グループに参加してみるのが良いでしょう。
インターネットで検索をすると、アルコールの場合は“断酒会”や“AA(アルコホーリクス・アノニマス)”、ギャンブルの場合は“GA(ギャンブラーズ・アノニマス)”などの情報が探せます。最近では、オンラインでの自助グループもできているようですので、地理的な制限によらず参加しやすくなっています。“オープン・ミーティング”と呼ばれるものは、ご家族も参加することができます。

 

では、ご家族や会社の方など周囲が困っているのに、ご本人は受診や自助グループへの参加をするつもりがない場合は、どうすればよいでしょうか?

ご家族からの相談を受ける窓口として、自治体の精神保健福祉センターという相談機関があります。無料で相談にのってくれたり、医療機関を紹介してくれたりします。
また、依存症の治療を掲げている医療機関では、ご本人の受診がなくても、ご家族の相談にのってもらえる場合もあります。
さらに、ご家族の会として、アラノン(アルコール)、ナラノン(薬物)、ギャマノン(ギャンブル)などのグループがあります。

心理的・社会的な状況も症状の出方や悪化のきっかけとして影響しますので、学業に影響が出ている場合は学校の関係者や学校医、大学ならば保健管理センター、仕事に関する困りごとが出ている場合は会社の産業医に相談できるかどうか、制度を調べてみましょう。

治療と学業/仕事の両立について相談にのってくれたり、その地域で評判の良い精神科を紹介してくれたりすることがあります。

 

  • 4.診断のためにどんな検査をするの?

 

メンタルクリニックでの初めての診察では、最近の困りごとだけでなく、生まれた時からこれまでの人生のこと(生育歴)、学校や仕事のこと(生活歴)を詳しく質問されることが多いでしょう。そうすることで、何かに依存することで紛らわしている“生きづらさ”が何からきているのか、つかめることもあります。

物質や行動への依存の可能性があれば、「どのくらい使うのか」「使えないときに離脱症状はあるか」「だんだんと量や時間が増えることがあるか」と聞かれるかもしれません。

チェックリストのようなアンケート(質問紙)に答えることがあるかもしれません。
依存症のスクリーニングだけでなく、抑うつや不安の程度を測るような質問紙を用いることもあります。根底に抑うつや不安があり、それらに対する対処法、自己治療として、ある行動が止められなくなっていることがあるからです。

近年注目されている、“大人の発達障害”が根底にあって、衝動性や人付き合いの傾向で生きづらさを感じている場合は、心理検査を行うこともあります。自分の傾向を理解することで、問題に対処しやすくなり、結果として依存の行動を減らせる/止めることができる場合があるからです。

また、健康状態を調べるために、血液検査を行うこともあります。会社などで受けた健康診断の結果が手元にあれば、持っていくことをおすすめします。
アルコールや薬の使用量が多い方の場合は、肝臓などの臓器への影響をみるために、腹部超音波検査などの画像検査を行うこともあります。

 

  • 5.依存症/使用障害の治療のこと

 

治療の目標は、依存しているもの(行動)をやめることではなく、身体やこころの健康、そして、社会的機能の改善です。

一昔前は、「本人が困って、本気で取り組む気になったら治療」という方針の治療者もいましたが、最近では、「コントロールがきかなくなる前に早めに治療につなげ、早期からサポートを受けられるようにしよう」となってきています。

治療の内容としては、困りごとを相談すること(診察やカウンセリング)、自助グループに参加すること、(薬が使える場合は)薬物療法、などを組み合わせて行います。
治療の原則としては、“コントロールがきかなくなっている物質(行動)をやめること”です。アルコールの場合は断酒、たばこの場合は禁煙、がそれに当たります。
ただ、やめることができなくて治療への意欲を失ってしまうよりは、“まず減らす”“害を少なくする”ことから入ってもよいでしょう。

ここで参考になるモデルとして、私たちが自分の行動を変えようとするとき、どのようなステージを経るのか、という研究があります(行動変容のステージモデル[ii])。
このモデルの要点は、それぞれの準備段階を行ったり来たりしながら、すこしずつ変容に向かうということです。

“運動をする”“ダイエットをする”という、普段の健康行動についてもあてはまりますので、ご自身の行動に当てはめて考えてみてください。

  • (1) 前熟考期:周りが指摘しても、行動の問題に気づいていない段階
  • (2) 熟考期:やめたいという気持ちと、やめたくないという気持ちがせめぎ合う段階
  • (3) 準備期:変わる決心はしたものの、行動に移せていない段階
  • (4) 実行期: 行動に移すことを始めた段階
  • (5) 維持期:新しい習慣を維持する時期(概ね6か月以上続いている段階)

身体の症状が良くなる、うつや不安などの気持ちのつらさが軽くなる、だけでなく、学業や仕事など、依存することでうまくいっていなかった部分がうまくいくようになることが大事です。
もちろん、回復のプロセスには時間がかかりますし、何もかもうまくいくとは限りません。ただ、できるところから、社会生活や体への悪影響を減らす(“ハームリダクション”といいます[iii])という考え方が、とても大事です。

薬による治療については、一定の効果は期待できますが、薬だけで劇的に改善することはあまりなく、日常生活の工夫を続けながら“長い目で回復を見守ること”が重要です。

特に、心理社会的なストレスが要因として大きい場合、上記の治療だけでうまくいかないことが多いので、カウンセリングや環境調整が必要になることもあります。

気分の落ち込みや意欲の低下があり、仕事に支障が出ている場合、いったん休職して療養に専念し、体調を整えてから仕事に戻るほうが良いこともあります。休職の制度は会社によって異なりますので、人事担当者に尋ねてみましょう

 

  • 6.まとめ

 

依存症/使用障害は、実は身近な問題です。ただ、“気の持ちよう”や“気合い”で何とかするいうよりは、“減らす”“害の少ない使い方をする”“使わない日を一日一日積み重ねていく”という向き合い方が良いでしょう。

依存症/使用障害は回復しますが、そのためには長い時間や多くのプロセスを踏む必要もあります。
自分だけで何とかしようとしないこと、周りにうまく頼ること、自助グループのように仲間といること、専門家の力を借りることが大事です。
困難さを抱えている人の、周りの人も困っている、苦しんでいる場合が多いものです。「自分が我慢すれば」ではなく、まずは話をしよう、相談しようというところから、一歩踏み出してみましょう。もちろん当院でも依存症/使用障害に関するご相談をお受けすることも可能です。大阪市城東区「鴫野駅」徒歩1分のけいクリニックまでお気軽にご相談ください。

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参考文献

[i] 樋口進:アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン、平成28年度厚生労働科学研究費補助金「アルコール依存症に対する総合的な医療の提供に関する研究」総合研究報告書(研究代表者 樋口進);2017.
[ii] Prochaska, J. O., DiClemente, C. C., & Norcross, J. C. (1997). In search of how people change: applications to addictive behaviors.
[iii] 徐淑子; 池田光穂. ハームリダクション: 概念成立の背景と日本における語の定着について. Co* Design, 2019, 6: 51-62.