こんにちは大阪市城東区鴫野駅から1分「けいクリニック」院長、精神科専門医の山下圭一です。
前回は睡眠薬についてのお話をしましたが、引き続き、お薬の話をしていきたいと思います。
今回は抗精神病薬についてのお話です。
<目次>
- 1.抗精神病薬はどのような症状に対して処方されるのか
- 2.抗精神病薬の種類
- 3.抗精神病薬の副作用
- 4.よく用いられる抗精神病薬一覧
- 5.統合失調症でない人が抗精神病薬を飲んだら
- 6.さいごに
- 1.抗精神病薬はどのような症状に対して処方されるのか
抗精神病薬は、“精神病症状”に対して投与される薬です。精神病性症状を呈する疾患の代表は統合失調症です。
統合失調症の原因は、ドパミンなどの脳内神経伝達物質の“バランスの崩れ“とされています。ドパミンが作動しすぎると、幻覚や妄想、思考の障害が現れます。これらの症状は陽性症状と呼ばれ、抗精神病薬によく反応します。
一方で、統合失調症には、感情が平らになる、無関心になる、引きこもる、意欲が低下する、などの陰性症状と呼ばれる症状もあります。陰性症状は陽性症状に比べて、薬物療法での改善が困難なことが多いと言われています。
ただ、後ほどご覧いただく第二世代抗精神病薬と分類される薬については陰性症状の改善についても効果が報告されており、治療の主流になっています。
急性期の統合失調症において抗精神病薬治療により、精神症状全般の改善、陽性症状の改善、陰性症状の改善、治療中断の現象、生活の質の改善が認められており、急性期の統合失調症に抗精神病薬治療を行うことが強く推奨されています。脳神経系の機能回復のために、薬物療法が用いられるのです[i]。
統合失調症の他にも、鎮静作用や、抗うつ薬の効果を強めてくれる効果を狙って、躁うつ病やうつ病といった気分障害に対しても用いられることがあります。ときには、不眠、高齢者に多い“せん妄”と呼ばれる意識障害や、がんの化学療法に伴う吐き気に対しても用いられることがあります。
- 2.抗精神病薬の種類
抗精神病薬は、第一世代抗精神病薬と第二世代抗精神病薬の、大きく2種類に分けられます。
第一世代抗精神病薬は、D2受容体をブロックすることで、幻覚や妄想といった陽性症状を改善する効果がある一方で、錐体外路症状も出やすいと言われています。
第二世代抗精神病薬は、D2受容体だけでなくセロトニン受容体等多くの受容体に作用するもの、D2受容体のブロックだけでなく弱い作動薬として作用する特徴などから、効果を維持しつつ副作用が出にくい設計になっています。
短期間の研究では、第二世代抗精神病薬のほうが、副作用なども少なく、薬を使い続けやすいため、再発率が低かったと示されています。ただ、第二世代抗精神病薬には、体重増加や高血糖など、代謝への影響が無視できないものもあり、精神症状が改善しても身体のご病気になりやすくなってしまうなど、トータルでみると本当にどちらが良いのかは難しいという意見もあります。
- 3.抗精神病薬の副作用
抗精神病薬の副作用は、錐体外路系副作用(錐体外路症状)、高プロラクチン血症による性機能障害、体重増加や脂質や糖代謝の異常、認知機能障害、心電図異常(QT延長)、便秘、が主なものです。
頻度は多くありませんが、起こってしまうと命にかかわる“悪性症候群”と呼ばれる副作用もあります。
錐体外路症状には、パーキンソン症状(よだれ、手の震え、小刻み歩行、等)、アカシジア(ソワソワしてじっとしていられない)、ジストニア(眼球上転、体が捻じれる、等)、ジスキネジア(口をもぐもぐさせる、等)があります。薬の量を減らしたり、種類を変えたりしてやわらぐこともありますが、どうしてもつらい場合は副作用止めの薬を同時に投与することもあります。
高プロラクチン血症になると、月経が止まったり、乳汁が出たり、性機能障害が出たりします。やはり、薬の量を減らしたり、種類を変えたりして対処します。
代謝障害には、体重増加や高血糖があります[ii]。糖尿病の方には投与できない薬もあります。定期的に血液検査を受けるなど、副作用が出ていないことを確認しながら治療をすることが必要です。また、食事や運動に気を付けるなど、生活習慣の工夫も大切です。
心電図異常に関しては、定期的に心電図検査を受けモニタリングをすることが望ましいでしょう。必要に応じて、循環器科で診察を受けたり、薬が原因である場合は薬の減量や変更が検討されたりするかもしれません。
便秘でお困りの場合は、まず、他に便秘の原因がないかを探しましょう。精神科のお薬以外にも、便秘を起こす薬剤はたくさんあります。また、運動不足や食物繊維の摂取不足も、便秘を引き起こします。便秘が起こりにくい薬に変更することもありますが、まずは生活習慣の見直しや、便秘薬を上手に使っていくことで、対処しましょう。
- 4.よく用いられる抗精神病薬一覧
急性期の統合失調症においては、抗精神病薬治療により、精神症状全般の改善、陽性症状の改善、陰性症状の改善、治療中断の減少、生活の質の改善が認められるとされています[iii]。
各薬剤間の効果については、明らかな差があったというデータは今のところないため、症状の程度、内服できるかどうか、糖尿病などの既往などを踏まえて、総合的に薬剤の選択がされています。
効果や副作用の出やすさは、薬の種類と量、個人差に影響されます。体質やその時の症状との相対的なものですので、有効性と副作用のバランスが大切です。治療効果が高くても、副作用が強く出てしまえば使い続けることが難しいですし、副作用を心配しすぎて薬の量が足りなければ、症状のつらさに苦しみ続けることになってしまいます。
- 5.統合失調症でない人が抗精神病薬を飲んだら
まったく健康な方が抗精神病薬を内服すると、眠気、ふらつき、重さ、など不快感を感じることが多いようです。発達障害の人は少量でも副作用が出やすいと言われていますので、より強く不快感を感じるかもしれません。
ただ、第二世代抗精神病薬のクエチアピン、第一世代抗精神病薬のレボメプロマジンなどは、鎮静効果を利用して、不眠の治療に使われることがあります。また、せん妄や、緩和医療の吐き気止めとして用いられることがあります。
身体の状態に対して、薬が必要な場合には、作用が表にでて副作用は目立たないこともあるかもしれません。
- 6.さいごに
抗精神病薬は、その人の症状や状態に合ったものを、必要な量、必要な期間、投与することが大切です。薬の量や種類を増やせば増やすほど効果があるというわけではありません。一方で副作用に関しては、薬の量や種類を増やすことで、リスクは上がります。
統合失調症も気分障害も、薬物療法と心理社会的アプローチの組み合わせで行うことが大切です。お薬について知り、うまく利用していきましょう。
当院では薬を飲んでいるのに改善しない、などといった困りごとへのご相談をお受けすることも可能です。大阪市城東区「鴫野駅」徒歩1分のけいクリニックまでお気軽にご相談ください。
参考文献
[i]日本神経精神薬理学会(2022). 統合失調症薬物治療ガイドライン2022 医学書院
[ii]宮内倫也(2014). こうすればうまくいく!精神科臨床はじめの一歩 中外医学社
[iii]渡部和成(2015). 専門医がホンネで語る統合失調症治療の気になるところ 星和書店