コラム

2022.08.10

抗不安薬について

こんにちは大阪市城東区鴫野駅から1分「けいクリニック」院長、精神科専門医の山下圭一です。

突然ですが、不安はどんな時に起こるでしょうか。

不安とは、危険への情動的な反応のひとつです。
動悸や過呼吸などの身体の症状を伴うこともありますが、不安が何らかの病気の症状とは限りませんし、必ず治療しなければならないものという訳ではありません。

例えば、夜道を歩いている時や知らない土地で道に迷ったときに不安になるのは、自然な反応です。このように不安は、外の世界の危険な状況を知らせてくれるアラームの役割があるのです。
ただ、ちょっとした危険に対して過度に強い不安が起こると、電車に乗ることができないなどにより行動範囲が狭められたり、人前で話をするのを避けたりと、日常生活や社会生活を妨げることがあります。

不安というアラームがあるおかげで、我々は危険を回避することができるのですが、危険ではない時に不安のアラームが鳴る、少しの危険に対してもアラームが過度に反応するという事態になり、生活に支障をきたしたり、苦痛が大きかったりすると、治療の対象となるのです。

治療の場面では、正常の反応としての不安なのか、病気の症状としての不安なのかを区別し、日常生活への影響に応じて、様々な対処が行われます。
そして、対処の一つに不安に対するお薬(抗不安薬)があります。今回は、抗不安薬を中心に、不安とその対処法について解説します。

<目次>

  • 1.不安を引き起こす病気について
  • 2.不安に対する薬について知ろう
  • 3.抗不安薬の使い方で気を付けること
  • 4.薬物療法以外の不安の治療
  • 5.さいごに

 

 

  • 1.不安を引き起こす病気について

不安が起きる代表的なご病気としては、“不安症”があります。

不安症とは、心理的原因により、不安などの心身の症状が引き起こされるもので、漠然とした不安から、人前に出るときの不安まで、症状の現れ方は人それぞれです。

全般不安症というご病気では、あることないことをあれこれ想像して心配になってしまい、眠れなくなったり、身体の緊張が取れなかったり、仕事に集中できなかったりします。
不安が身体的な症状に現れることも多く、内科を受診しても検査では異常なしと言われがちです。うつ病の合併も多いため、メンタルヘルスの専門家への早めの受診が大切です。

また、社交不安症とは、いわゆる“あがり症”ですが、恥ずかしい思いをするかもしれない状況、例えば、人前で話をしたり字を書いたりする、パーティーに出る、などの場面で、強い不安や苦痛を感じます。そして、不安にならないために、不安や苦痛を引き起こす状況を避けようとするので、社会生活に支障をきたすこともあります。

それ以外にも不安を引き起こす病気がいくつかあります。

例えば、うつ病や統合失調症の症状としても、不安は起こりえます。不安に加えて、食欲が落ちていたり、今まで好きだったことに興味が持てなくなったりする場合は、うつ病の一症状として不安が出ている可能性があります。
その場合は、抗不安薬だけに頼り続けるのはあまりお勧めしません。うつ病の治療をすることで、不安が改善することもあるでしょう。

その他にも、心疾患や甲状腺疾患など身体の病気でも不安に似た症状を引き起こすものがあります。不安イコールメンタル不調、ではなく、身体の検査も一緒に受けることが大切です。

 

  • 2.不安に対する薬について知ろう
  •  

  • 抗不安薬は、不安に対して用いられる薬です。
    ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、即効性があり効果を感じやすいため、とりあえず早く不安を抑えたいときによく用いられます。
    ただ、不安症やうつ病など不安を引き起こす病気の治療としては、そもそも不安が起きにくくするということが大事であり、抗うつ薬が推奨されています。ただ、抗うつ薬は、効果があらわれるまでに数週間を要することも多いため、それまでの間は抗不安薬の内服で対処する、という方法がよくとられています。

    ベンゾジアゼピン系抗不安薬については、できるだけ依存性の少ない薬を、量は少なく、期間も短めに、というのが大事なポイントです。

    寝つきが悪いけれども、いったん入眠できれば朝までぐっすり眠れる、という場合は、作用時間が短い睡眠薬がよく使われます。
    一方で、入眠できたとしても途中で目が覚めてしまう、熟眠感がない、という場合は、作用時間のより長いタイプの睡眠薬が用いられます。
    睡眠覚醒リズムを整えるタイプの薬も発売されており、依存やふらつきなどの副作用のリスクが低いことから、高齢者でもより安全に使用できるとされています。

  • ベンジゾアゼピン受容体作動薬/ベンゾジアゼピン系抗不安薬

γアミノ酪酸(GABA)の活性化により、不安を和らげてくれます。催眠効果、筋弛緩効果などもあります。
ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、効き目があらわれるのが早く、他の薬物との相互作用が少ないなど比較的安全性が高いという点で、精神科以外の医師による処方も多いお薬です。
ただ、依存性やふらつき、転倒のリスクなど副作用が問題となることが多く、短期的な使用に限るほうが良いお薬です。

作用時間の短い薬では、服薬と服薬の間に、逆に不安が増悪することがあります。また、減らしたり止めたりしようとすると、不眠や不安、気分深い、手の震え、頭痛、などの離脱症状を生じやすいため、中止するのが難しい薬です。
減らしかたや止め方も含めて相談したい場合は、精神科を受診し、主治医と相談しながら試みましょう。

また、その他の抗不安薬についても以下のようにまとめました。

 

  • 3.抗不安薬の使い方で気を付けること

不安に対するお薬の効果や副作用は、薬の種類と量、個人差に影響されます。

ベンゾジアゼピン系の抗不安薬のよくある副作用は、眠気、ふらつき、倦怠感です。不安でない人が抗不安薬を飲むと、これらの副作用を強く感じるかもしれません。

もちろん、副作用の現れ方は人それぞれですから、一概には言えません。初めて飲む場合は、翌日が休みの日の夜に、自分への効き方を試してみるのがよいでしょう。

ベンゾジアゼピン系の抗不安薬の効果が続いている時に運転や注意力を要する作業をすることは危険ですので、内服のタイミングについて主治医と相談しましょう。

飲みながら仕事をして、集中力低下などからミスをしてしまう場合、責任を問われる可能性もゼロではありません。抗不安薬を飲まないと仕事ができないような体調であれば、休職を検討するほうがよい場合が多いです。

ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は即効性がありますので、「飲むと効く」ことに頼りすぎてしまい、「飲まないと不安でつらい」ため、止められなくなることがあります。いわゆる、依存性の問題です。

また、減らしたり止めたりしたときに、逆に不安が高まったりイライラしたり、頭痛が起きたり、という離脱症状が出ることもあります。

いったん依存が形成されてしまうと、ベンゾジアゼピン系抗不安薬を減らしたり止めたりすることが難しくなるため、はじめから使用は最小限、最短の期間にすることが重要です。

その他の副作用としては、アルコールと同時に服用した時に、記憶が一部飛んだり(健忘)、普段はしないような行動をしたり(奇異反応)ということが見られることもあります。抗不安薬を服用する場合は、アルコールは飲んではいけません。

また、特に高齢者の方では、ふらついて転んでしまい骨折をしたり、せん妄と呼ばれる意識障害を起こしたりしやすくなります。
ご高齢の方は、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の使用は控えるほうがよいでしょう。

 

  • 4.薬物療法以外の不安の治療

 

不安に対しては、抗不安薬でその場しのぎを繰り返すよりも、適切な診断を受け、薬物療法と心理社会的なサポートを合わせて行うことで、不安そのものを起きにくくしたり、不安への対処法が上手になったりすることを目指しましょう。

薬物療法では、不安症やうつ病に対しては、抗うつ薬の内服が推奨されています。
ただ、抗うつ薬はのみ始めてから効果が出てくるまでに数週間かかることも多いですから、その間は即効性のある抗不安薬を併用することもあります。

また、発作が起きたときに頓用で抗不安薬を用いることもあります。“発作のときのお守り代わり”に抗不安薬を携帯することで、より安心して過ごせるという方も多くいらっしゃいます。

認知行動療法やリラクゼーション法などの心理療法で効果があるとされているものも多くあります。これらを身につけることで、不安への対処が上手になり、不安にうまく対処できるという自信を持つことにつながります。

不安症やうつ病があり、不安になりやすいという場合は、元々のご病気の治療によって、不安が軽減することがありますので、抗不安薬以外にも抗うつ薬や抗精神病薬が処方されることもあります。

原因があって不安になっている場合は、原因を取り除いたり解決したりできるならば、よいかもしれません。例えば、仕事で強いストレスを感じており、将来性やキャリアの不安がある場合等は、薬を飲み続けながら仕事に適応しようとするよりも、転職することが解決の道かもしれません。

ただ、原因の解決が難しいことも多いですから、折り合いをつけながら、不安そのものがつらい場合は不安を抑える薬を上手に使っていくことが多いです。

不安になることを「避けよう、避けよう」とするのではなく、不安にあえて近づいてみるというアプローチもあります。一時的に不安が高まるかもしれませんが、時間とともに不安が減っていくという練習を重ねることで、不安が起こりにくくなります。

それ以外にも、規則正しい生活、十分な睡眠、適度な運動、アルコールやコーヒーを飲みすぎない、などの生活習慣も大切です。

 

  • 5.さいごに

不安は、ストレスに対する身体の反応です。危険な状況を教えてくれる、アラームのような役割もあります。ただ、アラームが鳴らなくてもよい時に鳴ってしまって困るのが、症状としての不安です。

お薬も、依存しすぎないように上手に使えば、生活面の困りごとを解決するために役に立ちますから、主治医とよく相談しながら、自分に合った薬の使い方を探してみましょう。

当院でも、ご自身に合った薬の選び方、使い方などについてのご相談をお受けすることが可能です。大阪市城東区「鴫野駅」徒歩1分のけいクリニックまでお気軽にご相談ください。

 

参考文献

日本精神神経学会精神科薬物療法研修特別委員会編: 精神科薬物療法グッドプラクティス―ワンランク上の処方をめざして―. 新興医学出版社, 東京, 2015.
神庭重信, 山田和男. 黒木俊秀. カプラン精神科薬物ハンドブック エビデンスに 基づく向精神薬療法. 5 . メディカル・サイエンス・インターナショナル, 東京, 2015.
神庭重信・総編集、神尾陽子・編集 「DSM5時代の精神科診断DSM5読み解く 1─伝統的精神病理DSMIVICD10ふまえた新時代精神科診断中山書店, 東京, 2014.