コラム

2021.04.14

ADHDの子どもの日常~年代別の困りごとから診断治療まで~

こんにちは大阪市城東区鴫野駅から1分「けいクリニック」院長、精神科専門医の山下圭一です。
今日はADHDの子どもの日常に関して説明していきたいと思います。

結論からいうとADHDの子どもが感じる困りごとは年代別に異なっているので、 その年齢や環境に合わせた視点をもって子どもの日常生活を観察していくことが重要になってきます。
この記事ではADHDがどのような病気か振り返った上で、その症状から日常の中でどういった困りごとが出るのかを年代別に解説していきます。
続けてADHDの診断、治療に関して説明していければと思います。
治療の項目ではどういったかかわり方や声掛けが有効かも説明していきますので参考にした頂ければ幸いです。

目次

1.ADHDとは

ADHD(注意欠如多動性障害)は不注意、多動性、衝動性の3つの特徴を主な症状として認める発達障害の1つです。
100人に5人程度見られると言われており、女児より男児に3~5倍と優位に多く認められることが知られています。
原因としては脳の機能異常によるものと考えられており、脳のネットワーク調整の不良により実行機能や報酬系、時間調節機能に障害があると言われています。
発達障害は子どもから大人になる過程で症状が改善する方もおられますが、基本的には生まれ持った特性なので継続していきます。 具体的には子どもは両親や学校の先生に「忘れ物やケアレスミスが多い、集中力が続かない。立ち歩きがある、ジッとすることが出来ない、口より手が出てしまう」などの困りごとを指摘されて受診される一方、大人の場合は「仕事でミスが多い、忘れ物が多い、整理整頓ができない」などの困りごとをご自身で訴えて受診される方が多い印象です。

2.ADHDの子どもの困りごと、年代別に分けて

ここではADHDの子どもの症状と困りごとを年代別にまとめていきます。

1)乳児期(0~1歳)

乳児期は夜泣きが多い、睡眠が不安定など振り返ってみると育てにくい子だったと言われることがあります。
しかしながらこの段階で診断をつけることは困難ですし、ADHDでないかと受診に来られる方はおられません。

2)幼児期(1~6歳)

小学校入学までの幼児期に関して症状と困りごとを挙げていきます。
幼児期の子どもは不注意に関して指摘されることはあまり目立ちません、敢えてあげるならすぐに他のことに注意が向いてしまうなど気が散りやすい、下記に記載する怪我や事故などとも重なりますが注意せずに飛び出してしまい事故や怪我をしてしまうなどが挙げられます。 多動に関してはじっとしていない、ずっと動き回っているといった特徴が挙げられるが、この年代の男児は活発で多動あることが多いためそこまで目立たない場合も多いです。
衝動性に関しては口より先に手が出てしまう、順番が待てないなど集団生活の中でトラブルが生じてくることがあります。
また衝動性や多動性、不注意すべての要因が関与しますが、擦り傷など怪我が多い、事故に遭ってしまう、迷子になってしまうことが多いなどの困りごとも目立ちます。
幼児期には上記のような困りごとが挙げられますが、保育園や幼稚園など集団生活の中で指摘されることが多いです。
診断に関しては上記にも記載したようにこの年代の男児は活発であり診断自体も難しいといった問題もあります。  

3)小学生年代

小学生になると幼児期と異なり色々と求められることが増えてくるので不注意の症状が目立ってくる子どもが多くなってきます。
不注意の症状の具体的な表れ方としては「教科書や宿題などの忘れ物が多い、授業中に話を聴くことが出来ない、テストなどでケアレスミスが多い」などが挙げられます。 多動性に関しては「授業中に立ち歩いてしまう、じっと座っておくことが難しい」などの症状で表れることが多いです。
こういった多動の症状は小学校低学年で顕著だったものが高学年になるにしたがって改善してくるケースも目立ちます。 衝動性に関しては「考えずに軽はずみな行動が目立つ、また授業中に思ったことをすぐに口に出してしまう」などの行動として表れてきます。
小学生時代は上記のような症状のため家でも学校でも注意されたり叱責されることが増えるため自信のなさ、つまり自己肯定感の低下につながりやすいため注意が必要です。

4)中高生年代

中高生年代、思春期の不注意症状としては「授業に集中が出来ない、テストのケアレスミスが多い、提出物を持っていけない、時間管理が苦手であったり計画が立てられない」などの困りごとがあります。こういった症状は学習面の困り感に直結するので注意が必要です。
多動性に関しては授業中の離席などは減ってくるものの、体の一部が常に動いているため落ち着きのない子と思われていることがあります。
衝動性に関しては「話を最後まで聞けずに行動に移してしまうことや、急に感情的になりキレてしまう、後先を考えない」などの行動に現れることがあります。 こういった衝動的な症状は反抗的、反社会的とみられることも多く自尊心の低下と相まって非行などにつながってしまうパターンも少なからず認めます。
また報酬系の問題からネット依存やゲーム依存のリスクも高いと言われています。  

5)大学生時代

大学生となるとよりそれまでと比較して自由度も高まり色々とできることも多くなる分、自己管理を要求される場面も多くそういった点で困り感が目立ってきます。
大学に入ると高校生までと違いクラス単位の授業が減り、選択制になることが多く履修届などの手続きや自己管理がより要求されるようになる。
その際ADHDの不注意症状があると出席が足りない、提出物が出せないなど色々な面で困りごとが出てくる。
多動性、衝動性に関しては落ち着きがない、気が移りやすくいろんなことに手をだしてしまうなどの行動としてあらわれます。   上記のようにADHDは各ライフステージごとに困りごとが変わっていくためその時々に応じて症状と併せて考えていくことが必要になってきます。

3.ADHDの診断、治療に関して

ADHDの診断と治療に関して説明していきます。

1)ADHDの診断

ADHDの診断に関しては「生まれてからこれまでの生育歴」と「現在の困りごと」や「診察室の様子」、「心理検査」などを通して総合的に行います。
診断のポイントとしては幼少期から症状は持続していること、家と学校など2つ以上の状況で症状を認めることが重要になってきます。
そのため学校の先生からの情報なども診断に必要なものとなってきます。
また「自閉スペクトラム症」「学習障害」など他の発達障害でも不注意などの症状が出ることがあるため他の発達障害が原因ではないか、また他の発達障害の併存に関しても注意して診断を行っていくことが重要です。 当院では診察を行った後、ご家族や学校の先生に「ADHD評価スケール」というチェックリストを記載して頂いた上で情報収集を行います。
その後、知能検査や人格検査などの心理検査を実施した上で診断を行っていく流れとなっています。

2)ADHDの治療

ADHDの治療は心理社会的治療と薬物療法の2つが挙げられます。 以下に詳しく説明してきますが、治療としてまずは心理社会的治療を実施した上で生活の中で困りごとが多い場合に薬物療法が選択されます。 ADHDと診断されたからと言ってすぐに薬物療法が選択されるわけではないことは知っておいてください。

1)心理社会的療法

心理社会的治療とはADHDに関しての正しい知識を知った上で家庭や学校での環境調整を行っていくこと、親の行動を変えることで子どもの行動に変化が期待できる「ペアレントトレーニング」や、子ども自身へ対する行動療法的なかかわりである「ソーシャルスキルトレーニング」などが挙げられます。 ADHDの診断がついた場合まず学校や家庭での環境調整を行っていきます。
また学校の先生と診断を共有してもらった上で現在の困りごとは本人の怠けのせいではなく、発達の凸凹のせいということであると理解してもらえるようにしていきます。
環境調整としては学校や家庭の環境や本人の困った行動が出る状況を具体的に把握することが重要になってきます。
具体的な環境を把握した上で本人にとってどのような環境調整が良いかを話し合っていくことが必要となってきます。
以下にR.バークレイによる「ADHDの子どもを育てるときの10の方針」はADHDの特性に応じたかかわり方の基本にはなっていくので参考にしていただければ幸いです。 基本は押さえた上で個々人に合った環境調整を実施していくことが重要になってきます。

ペアレントトレーニング

ペアレントトレーニングとは保護者が子どもの望ましい行動を増やし、望ましくない行動を減らすための接し方や方法を学んでいく方法です。 よく行う説明として、まず子どもの行動を
①良い行動(増やしたい行動) 
②良くない行動(減らしたい行動) 
③危険な行動、人に迷惑かける行動(すぐ止めるべき行動) の3つに分けてあげます。
①に対しては褒める、ご褒美を与える、注目をする
②に対しては反応しない、無視をする。ただし良い行動が出ればすぐ褒めてあげましょう。
③に対しては警告して止めなければ、介入して止めさせます。終わったら水に流しましょう。 上記のかかわり方を行うことで子供は褒められことでうれしくなり、また良い行動をしたくなるという好循環が起こってきます。 人間が1日に行える行動は限りがあります。好ましい行動を増やせば、必然的に好ましくない行動は減っていきます。

2)薬物療法

薬物療法としては現在4種類の薬が使用可能であり薬理作用や内服回数、持続時間、副作用などが薬によって異なってきます。
以下にそれぞれの薬剤を説明していきます。
①コンサータ
コンサータはメチルフェニデートを主成分とする薬剤です。
脳内の神経伝達物質であるドパミンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害することで、ドパミンとノルアドレナリンの量を増やし情報伝達を改善しADHDの症状である不注意や多動・衝動性を改善すると考えられています。
1日1回朝に内服し12時間効果が持続する薬剤になります。 効果の出るまでの時間も数日と即効性があり、内服しない日に効果はありません。
出現しやすい副作用としては食欲低下が挙げられます、食欲低下が原因で体重減少などが生じることもあります。
現在処方に当たって患者登録が必要になっています。
②ストラテラ
ストラテラは脳内の伝達物質であるノルアドレナリンの再取り込みを阻害することでADHDの症状である不注意や多動・衝動性を改善すると考えられています。
子どもの場合は1日2回内服し24時間効果が持続する薬剤になります。効果の出るまでの時間は1~2か月と少し時間がかかります。
出現しやすい副作用としては吐き気や頭痛などの症状が挙げられます。
③インチュニブ
メチルフェニデート及びアトモキセチンとは作用の仕組みが異なり、α2Aアドレナリン受容体という部分に作用する薬剤です。
脳の前頭前皮質の錐体細胞の後シナプスに存在するノルアドレナリン受容体であるα2A受容体を刺激することで、神経伝達の作用を改善しADHDの症状を改善すると考えられています。
1日1回内服する薬で24時間効果が持続します。効果の出る前の時間は1~2週間と言われています。出現しやすい副作用としては眠気や血圧低下が挙げられます。
④ビバンセ
ビバンセとはリスデキサンフェタミンを主成分とする薬でADHDの薬として6~18歳の小児を対象に2019年12月3日より販売が開始されました。
ビバンセはコンサータと同じく患者登録が必要になってきます。また他のADHD治療薬が効果不十分な場合にのみ使用が可能という決まりがあります。
ビバンセは、神経と神経の間における神経伝達物質のドーパミンとノルアドレナリンの働きを高めてADHDの症状である不注意や多動・衝動性を改善すると考えられています。
1日1回朝に内服し12時間効果が持続する薬剤になります。
効果の出るまでの時間も数日と即効性があり、内服しない日に効果はありません。 出現しやすい副作用としては食欲低下や不眠が挙げられます、食欲低下が原因で体重減少などが生じることもあります。

以上がそれぞれの薬剤の特徴になります。
効果、持続時間、副作用など総合的に判断してその人に合った薬剤を決定していきます。
副作用に関しては薬剤を少量から開始して副作用が出現しないか観察していきます。 また一度薬剤を開始すると中止できないのではないかという質問を受けることがありますが、薬物療法に関しては症状を見ながら中止できるタイミングを考慮した上で相談をしていくことになります。
薬物療法をすることでご自身でも色々な工夫が可能となり薬を使用しなくても生活の中での困りごとが減る方も少なくありません。

4.まとめ

この記事ではの子どもの日常の困りごとに関して年代別にまとめていきました。
ADHDでは年代ごとに症状とその困りごとの現れ方が異なってきます。そのため年代に合わせて注意するポイントも異なってきます。
ADHDの子どもはその症状から日常生活の中での失敗体験を繰り返すことで自尊心の低下につながっていきます。子供の成長には自尊心が大事になっていきます、自尊心がしっかりと育っていくと失敗しても頑張ろうという気持ちがわいてきますが、自尊心が育ってないと失敗すると「どうせ自分なんて」と頑張れなくなってしまいます。
早い段階でADHDということに気付いてあげ適切な環境調整や支援、治療を行っていくことで自尊心を育てていくことは可能です。
また診断に至ったあとの治療に関しても心理社会的治療と薬物療法に関して説明していきました。治療としてまず環境調整も含めた心理社会的治療を行ったうえで、困り感が強い場合は薬物療法が選択肢に入ってきます。 適切なタイミングで薬物療法を実施することで症状の改善と困り感の軽減につながっていきます。
当院では子どもから大人まで経験豊富な医師が診察を行い、公認心理士により心理検査を実施した上でADHDの診断がつくのかどうか相談することが可能です。
ADHDの検査、治療を希望される方、また学校や家など生活上の困りごとに関してのご相談は大阪市城東区「鴫野駅」徒歩1分のけいクリニックまでお気軽にご相談ください。 

参考文献
1)注意欠如・多動症 –ADHD-の診断・治療ガイドライン第4版:ADHDの診断・治療指針に関する研究会 斎藤万比古 編
2)児童精神科医が教える子どものこころQ&A70:姜昌勲 著