コラム

2022.10.30

認知症の基礎知識~予防や治療の方法とは~

こんにちは大阪市城東区鴫野駅から1分「けいクリニック」院長、精神科専門医の山下圭一です。

今回のコラムでは認知症についてのお話をしたいと思います。

認知症とは、「獲得した複数の認知・精神状態が、意識障害によらないで日常生活や社会生活に支障をきたすほどに持続的に障害された状態」[i]です。
分かりやすく言いかえると、“いったん正常に発達した脳の機能が、何らかの原因で低下している。ただ、意識障害による一時的なものではない。そして、記憶、思考、理解、学習など様々な機能に障害が起こり、日常生活・社会生活に支障をきたす”状態といえるでしょう。

認知症は、65歳以上の約15%にみられるとされておりますので[ii]、高齢化が進むにつれて認知症の患者さんの数は増加することになります。

基本的には、認知症というのは症状が進むものですが、内科や精神科のご病気の症状として認知機能低下が起きている場合は、元のご病気の治療をすることで改善する場合もあります。
例えば、うつ病や甲状腺機能低下症、慢性硬膜下血腫などの病気でも、認知症と似た症状が出ることがあります。
これらは、治療によって改善することがありますので、「もう年だから」「認知症は治らないから」と放置せずに、一度は病院で診てもらいましょう。

[i] 認知症疾患ガイドライン2017

[ii] 厚生労働科学研究費補助金認知症対策総合研究事業. 都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応. 平成23年度~平成24年度総合研究報告書:2013.

Ikejima C, Hisanaga A, Multicentre population

 

<目次>

  • 1.認知症に多い症状とは
  • 2.認知症の診断はどのように行われるのか
  • 3.認知症にはいくつかの種類がある
  • 4.認知症の予防
  • 5.認知症の治療
  • 6.さいごに:ケアとサポート資源
  • 1.認知症に多い症状とは

認知症というと、“もの忘れ”、つまり記憶力の低下を思い浮かべる方が多いでしょう。

まず、加齢に伴うもの忘れは、認知症ではありません。

加齢に伴うもの忘れと、認知症のもの忘れの違いとしては、加齢に伴うもの忘れでは、「自分はもの忘れをした」という自覚があるということです。

例えば、加齢に伴うものは、「会った人の名前が思い出せない」という形で出ることが多いのですが、認知症では「会ったことそのものを忘れる」となりますので、自分がもの忘れをしていることに気づきにくくなります。
ただ、認知症でも初期の場合は、自分で自分のもの忘れを自覚することは、もちろんあります。

ここで、認知症の症状をみていきましょう。

認知症の症状は“中核症状”と“周辺症状(BPSD)”に大別されます。中核症状では、記憶、思考、見当識(時間や場所の認識)、理解、計算学習、言語、判断など、複数の脳の機能の障害が起こりえます。記憶の中でも、いつどこで何が起こった、という最近の日常の出来事が障害されることが多いと言われています。初期症状としては、約束したことを忘れたり、物を置き忘れたり、という形で気づかれます。
一方、周辺症状(BPSD:Behavioral and psychological symptoms of dementiaの略)は、不安、抑うつ、幻覚、誤認、徘徊、暴言などの精神症状・行動症状を指します。

また、認知症の前段階と言われる、軽度認知障害という病態もあります。
軽度認知障害では、記憶障害が中心で、その他注意や言語などの他の認知機能の領域に障害が出ることもあります。日常生活でできないことはあまりありませんが、時間がかかったりミスが多くなったりすることはあります。
軽度認知障害の515%は1年後に認知症に進行するとされています。また、研究によってばらつきはありますが、正常に戻る場合もあるとされています[i]

記憶障害以外では、意欲に関するところで、“ものごとに対して無気力、あるいは、決められない”“自分の行動を他人にどう思われるかを気にしない”“集中できず気が散ってしまう”なども起こります。

意欲低下などの精神症状は、“行動・心理症状”と呼ばれ、妄想や睡眠の障害、行動の障害が含まれます。他の人からみて、人格や行動が変わってしまって、あれ、と気づくことがあるかもしれません。

[i] 認知症疾患ガイドライン2017

 

  • 2.認知症の診断はどのように行われるのか
  • 認知機能の障害を引き起こす病気は、沢山あります。
    時には認知症に似た症状の背後に、心身のご病気が隠れていることがあるので、要注意です。

    例えば、転んで頭を打ったあと、少しずつ出血が続いて頭の硬膜下という場所に血の塊(血腫)ができる、慢性硬膜下血腫という病態があります。

    認知機能の低下、言葉が出てこない、意欲が低下するなどの症状が出ますが、適切に診断をして血腫を取り除く治療をすれば、症状が改善することが多いです。

    また、せん妄と呼ばれる、一時的な意識の障害や、うつ病など他の精神疾患のためにおこっているのではない、ということを確認するのも重要です。

    認知症を心配して病院に行く場合は、神経内科や老年内科、精神科がよいでしょう。もしくは、総合診療医や家庭医の先生は、心身共に総合的に診てくださいます。

  • 受診の際には、本人だけでなく、本人をよく知る情報提供者からの情報を集めることも欠かせませんので、普段の生活の様子をよくご存知な、ご家族や、ケアをする人が付き添うことが望ましいでしょう。

    診断のプロセスとしては、まず、先に述べた、加齢に伴う正常範囲内のもの忘れかどうかを検討します。

    次に、“軽度認知障害”という、認知症の診断はつかないけれども、以前に比べると認知機能が低下している、ただ日常生活は自立している、という状態かどうかも見きわめます。

    そして、“治療可能な認知症”とも言われる、診断と治療によって認知機能低下の症状が改善するご病気、例えば、薬剤性のもの、せん妄などの意識障害、うつ病などの精神疾患、ではないことを確認します。

    そのために、頭部CTMRIなどの画像検査、血液検査で、脳が出血や腫瘍などで圧迫されていないこと、ホルモンの異常などがないこと、が確認されます。

    画像の検査で、脳血管の障害が見つかり、病変の部位に一致した認知機能の障害や神経症状があり、段階的に悪くなったというエピソードがあれば、血管性認知症の疑いが強くなります。

    上記の検査を経て、他の原因が見つからず、変性性認知症の可能性が高そうだということになれば、症状の出方や画像検査などの検査の結果をもとにしながら、どのタイプの認知症なのかを鑑別していきます。

 

3.認知症にはいくつかの種類がある

DSM-5[i]では、神経認知障害群という分類となり、せん妄と認知症と軽度認知障害が含まれます。認知症の診断の際には、せん妄や軽度認知障害との区別が必要になってきます。

認知症のうちにもいくつかの種類があります。

ある調査によると、アルツハイマー型認知症が67.6%と一番多く、ついで血管性認知症が19.5%、レビー小体型認知症が4.3%という報告があります[ii]

アルツハイマー型認知症の中核的な症状は、記憶障害です。約束を忘れる、物の置き場所が分からない、話したことを忘れて同じ話を繰り返す、ということで気づかれます。昔の記憶は比較的保たれます。
また、仕事や家事がこれまでのようにできなくなることで気づかれることも多いです。
進行すると、日常に使う道具が使えなくなる、無気力になる、などの症状が進行し、最終的には、お風呂に入る、食事をする、服を着る、食事をするなどの基本的な動作や言葉の理解、発語もできなくなります。
およそ80%に行動・心理症状が出現し、怒りっぽい、暴言や暴力、拒絶、幻覚、徘徊などでケアの負担につながります[iii]

先に述べたように、認知症の中で約半数を占めるのが、アルツハイマー型認知症ですが、その他の認知症もあります。

血管性認知症とは、脳梗塞や脳出血が原因の認知症です。
細い血管に小さな梗塞が複数起きていて、麻痺などの大きな症状はないものの、認知機能の障害が段階的に進みます。
血管性認知症とアルツハイマー型認知症が合併することもあります。
治療としては、起こってしまった脳血管障害を元に戻す治療はありませんが、これ以上脳血管の障害が起きないように、血液を固まりにくくする薬を使うことがあります。

次に、上記の認知症よりも頻度は少ないですが、レビー小体型認知症や、前頭側頭型認知症と呼ばれるタイプもあります。
レビー小体型認知症では、初期には記憶障害が目立たない場合がありますが、注意や遂行機能の障害が出ることが多いのが特徴です。また、幻視を訴える、動作がゆっくりになる、振戦がある、などのパーキンソニズムと呼ばれる症状が特徴です。

前頭側頭型認知症では、行動の異常や精神症状、言語障害が特徴的です。
行動の異常としては、社会的に不適切な行動をとったり、無関心・無気力になったり、食行動が変化したりします。例えば、もともと非常にまじめで礼儀正しかった人が、失礼な態度になったり万引きのような犯罪を起こしたり、ということがあります。
残念ながら、前頭側頭型認知症に対して有効である、というエビデンスのある薬剤はいまのところなく、今後の研究が期待されるところです。

[i] American Psychiatric Association(著), 日本精神神経学会(日本語版用語監修), 高橋三郎, 大野裕(監訳)DSM-5精神疾患の分類と診断の手引. 医学書院, 2014.

[ii] 厚生労働科学研究費補助金認知症対策総合研究事業. 都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応. 平成23年度~平成24年度総合研究報告書:2013.

[iii] 認知症疾患ガイドライン2017

 

4.認知症の予防

血管性認知症の予防のためには、脳血管障害のリスクとなる、高血圧や糖尿病、脂質異常症、喫煙、飲酒にたいしてのアプローチが大事です。食事や運動などの生活習慣、薬による治療を行っている場合は服薬の管理が大事です。

飲酒習慣のある方では、アルコールの作用で脳が萎縮して、認知機能低下が起きることがあります。お酒を止めることで、症状が改善する方もいらっしゃいます。ぜひ断酒に取り組んでみてください。

また、お酒は高血圧や糖尿病のリスクも高めますので、血管性認知症の予防にもつながります。

その他、薬物療法や運動、認知機能訓練が認知症の進行を抑制できるか、という研究が行われていますが、残念ながら明らかに効果があるという結果は十分ではなく、さらなる研究が期待されています。

 

  • 5.認知症の治療

  • 認知症の治療としては、薬物療法と薬物療法以外のものがありますが、認知機能の低下に伴う日常生活への影響がどのくらいかによって、対処が変わってきます。
    また、行動・心理症状と呼ばれる、行動や感情面の困りごとの程度にもよります。

    薬物療法としては、アルツハイマー型認知症では脳内のアセチルコリンの低下が起きていることから、アセチルコリンの不活性化を抑制する、コリンエステラーゼ阻害薬という薬があります。
    また、NMDA受容体拮抗薬という薬では、過剰なグルタミン酸の神経毒性から神経細胞を保護する作用があります[i]
    これらの薬は、症状を緩和してくれることはありますが、残念ながら、根本的に治療するためのものではありません。

  •  

    次に、認知機能障害以外の症状として、怒りっぽくなったり、情緒不安定になったりという、“行動・心理症状”に対しての治療はあるのでしょうか。
    まず、行動・心理症状に対しては、身体状況や環境を工夫して症状がやわらぐかどうかを試します。デイサービスなどの介護保険サービスも活用しましょう。
    環境調整などによっても行動・心理症状が改善しない場合は、向精神薬というタイプの薬物が用いられることもあります。ふらつきによる転倒や骨折、誤嚥などのリスクが伴いますので、見守りが欠かせません。

    特に、レビー小体型認知症では薬物療法で有害事象があらわれやすいため、ケアや環境の整備がより重要になってきます。

    認知症に伴う睡眠障害に対しては、日中に日光浴をする、身体を動かす、昼寝を制限する、睡眠の環境を改善するなどの生活面の工夫が推奨されています。

    睡眠薬の使用は、日中の眠気、転倒、せん妄と呼ばれる意識障害の原因になることがありますので、慎重に行うことが必要です。

    [i] Sadock BJ, Sadock VA, Ruiz P, 井上令一,四宮 滋子,田宮 聡:カプラン臨床精神医学テキスト DSM-5 診断基準の臨床への展開 第 3 版.東京:メ ディカル・サイエンス・インターナショナル; 2016.

     

  • 6.さいごに:ケアとサポート資源

  • 認知症の社会的支援の制度がいくつかありますので、介護の負担を軽くするために、早いうちから積極的に利用すると良いでしょう。

    まず、40歳以上であれば、認知症は介護保険の対象となります。訪問介護・看護、通所介護や通所リハビリテーション、ショートステイなどの方法があります。
    また、施設としては、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設(老人保健施設)、介護療養型医療施設(療養型医療施設)があります。さらに、小規模多機能型居宅介護という地域密着の施設もあります。

    自分一人で福祉サービスを選んだり契約したりするのが困難な場合には、日常生活自立支援事業や成年後見制度を利用することができます。

    認知症が進行すると、色々なことを自分で決めるのが難しくなるため、症状が軽い段階で今後の話し合いをしておくことが大切です。

    高齢化が進み、自分の家族や自分自身が認知症になる、ということが身近になっています。
    社会資源について知り、早めに色々な窓口や医療機関で相談をしながら、認知症の症状があっても自分らしく生きられることを目指しましょう。

  • 当院でも、認知症に関するご相談をお受けすることや、活用できる制度のアドバイスなども行っております。大阪市城東区「鴫野駅」徒歩1分のけいクリニックまでお気軽にご相談ください。