こんにちは大阪市城東区鴫野駅から1分「けいクリニック」院長、精神科専門医の山下圭一です。
“気分が落ち込む”とは、“ゆううつ”、“悲しい”、“やる気がわかない”、などと表現されることもあります。ストレスに対する一時的な反応のこともあれば、数か月以上にわたって続く場合もありますし、気分の落ち込みが様々なご病気の予兆や症状の一つであることもあります。
今回は、気分の落ち込みはどんなときに起こるのか、様子を見てもよい気分の落ち込みと、注意したほうがよい気分の落ち込みの違いは何なのか、気分の落ち込みに自分でできることはあるか、ということをご説明したいと思います。
<目次>
- 1.気分が落ち込むときのチェックリスト
- 2.注意が必要な気分の落ち込み
- 3.気分の落ち込みに伴う症状
- 4.気分の落ち込みへの対処
- 5.気分の落ち込みに対する治療
- 6.まとめ
- 1.気分が落ち込むときのチェックリスト
あなたは、どんな時に気分が落ち込みますか?
「気分が落ち込んでいるな」とどのくらいの頻度で感じますか?
ストレスを感じることがあったとき、気分が落ち込むのは、自然な反応です。ただ、気分の落ち込みは、うつ病などのご病気のはじまりのこともあります。
もし、2週間以上にわたって、ほとんど毎日気分が落ち込むことがあるようなら、以下の症状をチェックしてみてください。
5つ以上当てはまるようならば、うつ病などご病気の可能性がありますので、心療内科や精神科への受診をご検討ください。
- □ 興味を持ったり楽しいと思ったりすることが減った
- □ イライラして怒りっぽい
- □ 食事療法をしていないのに、体重が減る
- □ 食事応報をしていないのに体重が増える
- □ 眠れない
- □ 眠りすぎる
- □ 落ち着きがない
- □ 動作やしゃべり方がゆっくりになる
- □ 疲労感や気力の減退
- □ 自分に価値がないと思う
- □ 自分を過剰に攻めてしまう
- □ 思考力や集中力が落ちて、物ごとが決められない
- □ 死について繰り返し考えてしまう
気分の落ち込みの相談にのる専門家は、心療内科や精神科の医師や、臨床心理士・公認心理師ですが、どこにかかったらよいかわからない、という場合は、かかりつけの医師(内科や婦人科など)に相談してみましょう。
専門医への受診をしたほうがよいのか、カウンセリングの適応があるのか、しばらく様子をみてもよいのか、意見をもらえることがあります。
- 2.注意が必要な気分の落ち込み
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何となく気分が落ち込んでいるけれども、よいことがあれば、気分が晴れる。もしくは、仕事の失敗などストレスがあれば気分が落ち込むけれども、趣味に打ち込んでいると落ち込みは消える、という状況であれば、自然な反応の可能性が高いでしょう。
ただ、このような自然な気分の落ちこみと、病気の前触れの気分の落ち込みは、区別が難しいものですから、慎重に経過を見ることが大事です。また、病気の症状としての気分の落ち込みが出ている可能性がある場合は、早めに医療機関を受診することが大切になってきます。
では、注意が必要な気分の落ち込みについて説明していきましょう。
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まず、気分が落ち込むというのは、医学的には“抑うつ”と表現されることが多いでしょう。ほかにも、悲しみ、絶望、憂うつ、自分に価値がないという感覚という訴えとしてあらわれることもあります[i]。
気分の落ち込みの原因としては、睡眠不足や人間関係の悩み、経済的な問題や健康上の問題といった人生のストレスに加えて、季節や気圧に影響を受けることもあります。 -
気分の落ち込みが症状として出るご病気の代表としては、うつ病、双極性障害、持続性抑うつ障害、適応障害、不安症、摂食障害、統合失調症、アルコール依存があります。
そのほか、神経系のご病気としては、パーキンソン病や認知症、てんかん、脳血管障害、腫瘍もありますし、内科のご病気として、甲状腺や副腎など内分泌系の異常でも、気分の落ち込みが起こりえます。
また、気分はホルモンバランスにも影響されますので、月経前や出産前後など、ホルモンバランスの変化が大きい時期、更年期(男性においても、男性ホルモンの低下による更年期があります)、ホルモンに関連するようながん(乳がんや前立腺がん)の治療中にもみられることがあります。
近しい人との別れに伴う気分の落ち込みは、うつ病などの診断がすぐになされることはあまりありませんが、症状の程度が重かったり、期間が長かったりする場合は、診断基準に基づいてうつ病と診断されることがあります。
[i] Sadock BJ, Sadock VA, Ruiz P, 井上令一,四宮 滋子,田宮 聡:カプラン臨床精神医学テキスト DSM-5 診断基準の臨床への展開 第 3 版.東京:メ ディカル・サイエンス・インターナショナル; 2016.
3.気分の落ち込みに伴う症状
気分が落ち込むとき、いろいろな症状や現象と伴うことがあります。例えば、涙が出る、眠れない、食欲がない、やる気がわかない、などです。
まず、涙がでること自体は悪いことではありません。
泣いてすっきりするならば、のちに述べるような効果的なコーピング(対処法)として役に立っているのかもしれません。
ただ、つらくて泣いてしまうことが続くようならば、先に述べたチェックリストを試してみたり、専門家に相談したり、ということが必要でしょう。
また、「泣くことができないほどつらい」という気分の落ち込みもあります。泣くことができれば少しは気分がすっきりするかもしれないのに、泣きたくても泣けないというのは、非常につらい状況です。
「泣くほどではないからそれほど重大ではない」、のではなく、自分自身の気持ちを保つために、身体の感覚や感情が鈍くなっている状態である可能性がありますので、要注意です。
次に、睡眠については、気分が落ち込むと、悪いことをぐるぐると考えてしまって寝付けない、眠りが浅い、寝ても疲れが取れない、ということが起こることがあります。
睡眠不足も気分の落ち込みの一因となりますので、眠れないとさらに気分が落ち込む、という悪循環に陥りがちです。
睡眠をとることができれば、気分の落ち込みそのものも改善することもありますので、良い睡眠のためにできることをやってみましょう。例えば、以下の中でできそうなことから、試してみましょう。
- ・アルコールの摂取を避ける
- ・午後遅め以降はコーヒーなどカフェインの摂取を避ける
- ・就寝時間の1時間前からは、スマホやパソコンは見ない
- ・熱すぎないお風呂にゆったりと浸かってリラックスする
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また、食欲についてですが、気分が落ち込んで食欲が落ちることが続くと、体力が落ちてしまい、ますます元気や意欲がわかなくなりがちです。
対処法としては、栄養バランスなどはいったん置いておいて、口にしやすいものを食べるというところから始めてもいいかもしれません。 - 眠れない、食欲が落ちる、ということが続くようなら、体力が低下してしまう前に、早めの受診を考えましょう。
次に、気分が落ち込み、やる気がわかないときは、どうすればよいのでしょうか。
やる気、意欲がわかないと、仕事や家事などのものごとがうまく進められず、それが原因でまた落ち込んでしまうという悪循環に陥り勝ちです。
このような場合は、仕事を減らしてもらう、ストレスがかかっている業務から外してもらう、などの方法が取れないか、周囲の人に相談をしてみましょう。可能であれば、数日間有給休暇を取得するのもおすすめです。
家事や身の回りのことができないという場合も、家族に頼る、外部のサービスに頼る、など、タスクを減らしましょう。
気分の落ち込みや、それに伴う困りごとが出ているときには、できるだけタスクを減らし、休息をとることが大事です。
むしろ焦ってしまうという方もいらっしゃるかもしれませんが、急がば回れ、と思って、いったんゆっくり過ごす時間をとってみましょう。
4.気分の落ち込みへの対処
なんとなく気分が落ち込むときの対処法として、みなさんはどんなことをされているでしょうか。
まずは、睡眠不足や不規則な食生活自体が気分の落ち込みの原因になることがありますので、十分な睡眠をとりましょう。レトルト食やコンビニ弁当だけではなく、野菜や果物、良質のたんぱく質など、バランスの良い食事をしましょう。
また、身体を動かすことは気分の落ち込みを和らげてくれることがあります。激しい運動でなくてもよいので、散歩やヨガ、ストレッチなど、楽にできる範囲で取り組んでみましょう。
余計なことを考えないようにとにかく身体を動かす、など、半ば無理やり気分を変えるという方法をとる方もいらっしゃるかもしれませんが、無理は禁物です。
心地よいと感じられることが一番大事です。
よくあるのが、音楽を聴く、漫画を読む、映画を見る、ペットと過ごすなど自分が好きなものに触れる時間をつくることです。
今日ご紹介をしたいのは、コーピングレパートリーという言葉です。その人が持っている対処(コーピング)をひっくるめたものです[i]。コーピングレパートリーが多いほど助けになりますし、時間やお金のかからないささやかなコーピングを集めて、いつでも使えるようにしておきましょう。
「気分が落ち込んでいるな」と感じたら、まずはその場でできるコーピングを試してみましょう。
コーピングを試しても落ち込んだ気分が変わらないとき、「なぜ効果がないのだろう?」と考え込むよりは、別のコーピングを試してみましょう。そうするうちに、気分の落ち込みがやわらいでくることがあります。
日本語では、“ごほうび”という考え方もあります。
ある出来事が起きて気分が落ちこんだとき、何となく気分が晴れていることもある一方で、過去の後悔や未来への不安で頭がいっぱいになってしまうこともあります[ii]。
このような事態から脱するために役に立つのが、楽しみや達成感のある「行動」をすることです。
そういうときには、ごほうび、つまり、ご自身の生活や習慣の中にある「楽しみや達成感のある活動」「行うと元気になる行動」を活用しましょう。
負担を感じたら、深く考えるより、自分にごほうびとなる行動を実行し、心身の健康を維持することが大切なのです。
『ごほうび大全集』[iii]では、ごほうび行動の例がたくさん載っています。参考にしてみましょう。
[i] 伊藤絵美(2020)『セルフケアの道具箱 ストレスと上手につきあう100のワーク』晶文社.
[ii] ごほうび大全集 http://www.heartland.or.jp/data/shigisan_info/2021/704/
[iii] ごほうび大全集 http://www.heartland.or.jp/data/shigisan_info/2021/704/
5.気分の落ち込みに対する治療
うつ病や持続性抑うつ障害には抗うつ薬、双極性障害に対しては気分安定薬など、薬物療法の効果があることがあります。
気分や感情は、セロトニンやノルアドレナリンを中心に、ドパミンやアセチルコリンなどの神経伝達物質が関係しているとされています。何らかの原因で、神経伝達物質のバランスが乱れていて気分が落ち込んでいるとすると、薬の力を借りて、枯渇した神経伝達物質を増やしたりバランスを取ったりすることで、気分の落ち込みが改善することがあります。
また、気分安定薬のなかには、気分の落ち込みを起こりにくくしてくれるものもあります。
主治医の先生と相談しながら、自分の症状や体調に合った薬を見つけていきましょう。
気分の落ち込みに、不眠や不安が伴っている場合は、対症療法としての睡眠薬や抗不安薬を用いることで、症状が和らぐこともあるでしょう(※睡眠薬や抗不安薬はふらつきなどの副作用や依存性が心配されますので、長期にわたる連用はお勧めできません)。
薬物療法以外の治療として、心理療法があります。
認知行動療法や行動活性化療法などの心理療法によって、悲観的なものごとのとらえかたから抜け出したり、気分が落ちこんだ時に行動することで気分を変える方法を身につけたりすることもできます。
6.まとめ
今回は、気分の落ち込みについて、どんなときに起こるのか、注意したほうが良い気分の落ち込みとは、自分でできる対処法とは、専門家と一緒にできる治療とは、について解説しました。
ストレスを感じることがあったとき、対人関係でうまくいかないとき、予定通りにいかないとき、思いがけないネガティブな出来事に遭遇したとき、なんとなく気分が落ち込むのは自然な反応です。
ただ、うまく対処できないと、気分が落ち込んだ状態が続いてしまい、眠れない、身体の調子が悪いなど、そのほかの不調に発展しやすくなります。
ですから、気分が落ち込むときには、早めに気づいて対処することが大切です。
気分が落ち込んだ時に、すぐに対処法を思いつくのは難しいことも多いので、普段から「これをすると気持ちが軽くなる」「嫌なことを忘れられる」というコーピング/“ごほうび”について考えておきましょう。
当院でも、気分の落ち込みに関するご相談、薬物療法や心理療法に関するご相談などをお受けすることが可能です。ご自身での解決が難しい場合や長期間にわたって気分の落ち込みが続いているなどのお悩みがございましたら、大阪市城東区「鴫野駅」徒歩1分のけいクリニックまでお気軽にご相談ください。