コラム

2021.09.30

発達障害のお悩み相談~社会資源を利用しよう~

こんにちは大阪市城東区鴫野駅から1分「けいクリニック」院長、精神科専門医の山下圭一です。
今日は具体的なケースを例に挙げて発達障害に関して改めて説明した上で、発達障害の方が利用できる社会資源に関してお伝えしていければと思います。
 

目次 

  • 1発達障害ってそもそも何なの?
  • 2子どもの発達障害
  • 3大人の発達障害
  • 4自閉スペクトラムと注意欠如・多動症に関して
  • 5社会資源を利用しよう
  • 6まとめ



“発達障害”ではないかと心配されて、精神科を受診される方が増えています。
どこからが発達障害なのか、どこまでが発達障害ではないのか、判断に苦慮するケースは少なくありません。ここでは、発達障害について、その特徴や、発達障害と診断された場合の支援制度について解説いたします。
 

1.発達障害ってそもそも何なの?
発達障害とは“生まれつきみられる脳の働き方の違いにより、幼少期から行動面や情緒面に特徴があること”です 
「私の育て方が悪かったのかしら…」と心配される方もいらっしゃいますが、実は育て方によっておこるものではありません。 
精神科の診断の基準はたびたび変わることがあるのですが、2013年に改訂された『精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)』という診断基準には、“神経発達症群/神経発達障害群”として、知的能力、コミュニケーション、自閉スペクトラム、注意欠如・多動、学習、運動、という非常に広い領域の障害が含まれています。また、知的能力の障害+自閉スペクトラム症、のように2つ以上の障害があることもまれではありません。

発達障害者支援法では“発達障害者とは発達障害がある者であって、発達障害及び社会的障壁により日常生活または社会生活に制限を受けるもの”とあります。どんな障害があるか、どのくらい重いか、だけでなく、社会的に何らかのハードルがあることも発達障害と診断することに重要になっています。 
そこで、発達障害の診断や支援制度について、周囲の方にも知っていただきたいポイントをまとめました。

2.子どもの発達障害
知的能力、コミュニケーション(言語、会話、社会的コミュニケーション等)、運動機能、学習(読み、書き、計算等)面で発達障害の特性があると、保育園に入り集団生活が始まったり小学校に入学し環境が変わった際に困りごとが出現することが多いです。 

1歳半、3歳時の健診で障害の可能性を指摘された、園や学校の先生から専門家への相談を勧められた、という方もいらっしゃるかもしれません。ただ、23歳で症状が目立っていても、年齢を重ねると目立たなくなることもありますので、早く診断を受けることだけが大事というわけではありません。

お子さんが「発達障害ではないか」と心配な時は、自治体の保健センターや発達障がい者支援センター等に相談できる窓口があります(名称は様々です)。相談支援機関にかかることで、支援が必要な部分が明らかになります。

診断名や障害の程度だけではなく、日常生活のどこに困りごとがあるのか、どういうサポートがあると困りごとを減らせるか、という視点が大切です。

 <3歳男児のケース>
 おとなしく育てやすい子でしたが、言葉が遅く、1歳半健診で発達障害の可能性があると言われました。保育園で集団行動ができず、こだわりが強くて、時々パニックになるため、保育園の先生から相談を勧められたそうです。検査で自閉スペクトラム症の傾向があることが分かり、療育に通い始めたところ、接し方や環境に関して両親や保育園の先生が工夫をすることにより、パニックを起こすことは少なくなり、今では楽しんで保育園に通っているそうです。


発達障害のお子さんをもつご家族に対する経済的な支援としては、特別児童扶養手当があります。20歳未満の精神又は身体に障害を有する児童を家庭で監護・養育している方に支給されるもので、支給月額は1級で52,500円、2級で34,970円となっています(令和310月現在)。

申請には医師の診断書が必要ですが、療育手帳や身体障害者手帳を持っている場合には、診断書が省略できることもあります。申請に必要なものや認定後の届け(所得制限に関する所得状況届け等)については、市役所や町村役場など行政機関の窓口でお問い合わせください。

3.大人の発達障害

近年、発達障害を心配して受診する大人の方が増えています。子どもの頃から発達のかたよりはあったものの、大きく困ることはなく過ごしてきた方が、就職や昇進などをきっかけに困りごとが出現することがあるためです。最近では、“大人の発達障害”に関するメディアでの発信が増えていますので、「自分は発達障害ではないか」「家族(もしくは社員)が発達障害ではないか」と、自分から、もしくは周囲の人の勧めによって、大人になって初めて精神科、心療内科を受診し、診断されることもよくあります。

発達障害の方というのは、少数派であることによる生きづらさや挫折感を経験したり、慢性的にストレスを感じ続けたりしていることが多く、身体症状症、不安症、適応障害、などの診断が先につき、問題の背景に発達障害の特性があると気づかれて発達障害の診断があとから加わることもあります。以前よりも、マルチタスクや“空気を読む”といった高度なコミュニケーションが求められるような社会になってきている影響もあると一因かと思います。

自分か周りの誰かが困っているときや、その他診断を受けることがご本人の生きづらさを解決することにつながる場合には、医療や支援制度を利用していただければと思います。 

うつ状態で休職をして、会社を辞めようとしていたところから、無事に復職できた20代の女性の方のエピソードから考えてみましょう。

23歳女性のケース>
 子どもの頃からそそっかしく、忘れ物が多くて片づけが苦手だったものの、学生時代まで実家で暮らしていたため大きく困ることはありませんでした。大学卒業後に就職して一人暮らしを始めましたが、部屋の片づけができない、寝坊して友人との待ち合わせに遅れる、大事な仕事でミスして怒られて、すっかり落ち込んでいました。「仕事辞めたい」と上司に相談したことから産業医面談につながり、退職は保留にすることと、心療内科を受診することを勧められました。

お酒を飲むことでストレス解消をしており、毎日お酒を飲むことが習慣になっていました。“うつ状態”の診断で休職となりましたが、診察の中で発達障害を疑われ、ADHDの診断がつき、薬物療法が開始され上記のような不注意からくる困りごとが改善しました。またお酒をやめてリワークに通うことで、無事に復職できました。

この方は、忘れ物や片づけができなくても学校の勉強にはあまり困らなかったようで、子どもの頃に発達障害ではないかと思われたことはなかったそうです。ただ、就職や一人暮らしをきっかけに、周りのサポートが少なくなったことで、困りごとが露呈しました。
人によりますが、発達障害の方でアルコールやゲームなどに依存しやすくなる人もおられます。

4.自閉スペクトラムと注意欠如・多動症に関して
ここでは、大人になってからも診断を受けることが比較的多い、自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)について症状をみていきましょう。

自閉スペクトラム症(ASD)
社会的コミュニケーションや情緒的なやりとり(いわゆる“空気を読む”こと)が苦手で、人との距離を取り方がわからない、会話のやり取りがぎこちない、感情を共有しにくい、などの特徴があります。
子どもでは、同じ体の動きを繰り返す(飛び跳ねたり、揺れたり、物をたたいたり)、オウム返しや独特な言い回しをする、こだわりが強い、感覚過敏、などで気づかれることが多いです。知的能力の障害を伴うこともあります。
知能や言語の障害がなければ、「ちょっと変わった人」と思われていても発達障害の診断を受けることがないこともあります。ただ、社会に出てから、対人的なやり取りの苦手さから仕事で苦労することがあり、適応障害やうつ状態で精神科を初めて受診される方もいらっしゃいます。

注意欠如・多動症(ADHD)
注意欠如・多動症の特徴は(1)不注意、と(2)多動性・衝動性に分けられます。
不注意では、すぐに気が散る、“心ここにあらず”になる、指示に従えない、順序立てて何かを行うことが苦手、物をよく失くす、忘れっぽい、となりがちです。
多動性・衝動性では、じっとしていることができない、静かに遊べない、しゃべりすぎる、人の話を最後まで聞けない、順番を待つのが苦手、他人を邪魔する、ということがみられます。

これらの症状が12歳より前からあり、二つ以上の状況(例:学校と家)でみられることが診断には重要になってきます。ただ、年齢を重ねると、多動や衝動性は軽くなることがあります。
また、多動が目立たず、不注意がメインだったため子どもの頃は「あわてんぼう」くらいに思われていたのが、大人になってから仕事のミスが多いことや、片づけや家事ができない、ということで落ち込んで精神科を受診され、診断がつくこともあります。
ADHDの場合は、症状を改善する薬がありますので、診断がついて薬物療法を始めることで、「以前より生活しやすくなった」という患者さんも多いです。

5.社会資源を利用しよう
 
発達障害と診断された場合、通院しながら生活上の困りごとに関して相談したり、薬を使って治療をしていくことが必要になってきます。また、仕事や人間関係でストレスを抱えてうつ状態になったり、その他の精神症状で通院を続ける場合、経済的な負担は小さいものではありません。仕事を続けることが難しくなることもあるかもしれません。そういう時に利用できる制度について知っておきましょう。
Ⅰ.自立支援医療(精神通院医療)
通院による治療を続ける必要があるとき、自立支援医療(精神通院医療)の適用を受けると、指定の医療機関や薬局での自己負担が1割(通常は3割)になります。さらに、1ヵ月あたりの負担には世帯の所得に応じて上限が設けられます。

申請のためには、お住まいの自治体の担当窓口で、申請書、医師の診断書、所得状況が確認できる資料、健康保険証、マイナンバーの確認書類等を添えて申請します。詳しくは、通院先の医療機関でお問い合わせください。

当院であれば受診いただいた際に医師に相談いただいても結構ですし、受付に聞いていただいても大丈夫です。

Ⅱ.精神障害者保健福祉手帳

一定程度の精神障害の状態にあることを認定するもので、公共料金等の割引や、税金の減免等、様々な制度が使えるようになります。1級、2級、3級の3つの級があります。1級は“他人の介助がなければ日常生活を送れない”、2級は“日常生活が著しい制限を受ける”状態をいいます。3級は“日常生活や社会生活が制限を受ける”というイメージです。

申請は、初診日から6ヶ月以上経過しているときに可能になります。申請書に診断書や障害年金の証書、写真を添えて行います。手帳用の診断書で、上記の自立支援医療(精神通院医療)を同時に申し込むこともできます。詳しくは、お住まいの自治体のホームページをご覧になるか、通院先の医療機関でお問い合わせください。

手帳を持つことのデメリットはなく、前述の支援に加えて、仕事を探すときに障害者枠での採用という選択肢が増えるというメリットがあります。障害者雇用では、業務の量や内容を軽くしてもらえる、通院のための休暇が取りやすくなる等の配慮をしてもらえることが多いようです。

手帳は必要がなければ返還していただくことも可能です。あくまで選択肢を広げる手段と考えて頂ければと思います。

Ⅲ.障害年金
経済的な支援制度としては、障害年金制度があります。大きく分けて、国民年金法に基づく障害基礎年金と、厚生年金保険法に基づく障害厚生年金の二種類があります。
それぞれ支給要件が異なりますので、みていきましょう。

①障害基礎年金
初めて医師の診療を受けた日(初診日)に、①国民年金の被保険者である、もしくは、②国民年金の被保険者であった方で、日本国内に住所があり、60歳以上65歳未満である場合、障害基礎年金の支給を受けられる可能性があります。すぐに申請できるわけではなく、“障害認定日”と言われる、初診日から起算して16か月、あるいはそれより前で症状が固定した日の障害の程度をみます。障害の程度がある程度重い方が対象となりますので、医師の診断書に基づいて、障害等級の1級または2級に該当するかがポイントとなります。
また、国民年金の保険料を一定以上納めていることが必要になります。初診日の前日の時点で、初診日の属する月の前々月までに、保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が被保険者期間の3分の2以上であることが必要です。その他、特例として初診日が令和841日前にある傷病による障害については、初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの1年間に未納期間がない場合は、保険料納付要件を満たしたとされます(65歳未満の場合)。未払い期間が長い方でも、直近1年間にきちんと保険料を納付していれば、こちらに該当する可能性があります。
また、“20歳前の傷病による障害基礎年金”と呼ばれる、初診日の属する月の前々月までに被保険者期間がないものについては、保険料納付要件が問われません。子どもの頃に発達障害で精神科に受診歴がある場合、20歳になった日を障害認定日として、障害等級の1級または2級に該当していれば、障害基礎年金を申請することができます。
障害基礎年金の基本額(年額)は、1級で約970,000円、2級で約780,000円です(改定率により、毎年変わります)。

②障害厚生年金
初めて医師の診療を受けた日(初診日)に、厚生年金保険の被保険者である方は支給を受けられる可能性があります。障害厚生年金の場合も、障害基礎年金と同じように “障害認定日”と言われる、初診日から起算して16か月、あるいはそれより前で症状が固定した日の障害の程度をみます。障害厚生年金が障害基礎年金と異なるポイントは、3級という等級があることです。ですので、障害等級が1級または2級の場合は、“障害基礎年金+障害厚生年金”が支給され、3級の場合は“障害厚生年金のみ”を支給されることになります。
保険料納付要件としては、障害基礎年金と同じく、①初診日の前日に置いて、初診日の属する月の前々月までに被保険者期間があるとき、保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が被保険者期間の3分の2以上、②初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がない、ことが必要になります。
また、20歳前の初診日において、厚生年金保険の被保険者であった場合、障害基礎年金ではなく障害厚生年金を申請することになります。障害厚生年金の基本額は、標準報酬や配偶者の有無により異なります。
年金の支給要件の確認や申請については複雑ですので、病院のソーシャルワーカーや社会保険労務士に申請のサポートをお願いするのも一つの方法です。
当院でも可能な範囲でご相談には乗っていますので一度ご相談いただければと思います。

6.まとめ
様々な公的支援制度を上手に利用することで、生活の大変さや困りごとを減らすことができます。また、ご自分の特性について知り、周囲の方の理解を得ることで、無理をする必要が減ることもあります。
一人で悩まずに、ご家族や学校・職場の頼りやすい人、主治医、精神保健福祉士、社会保険労務士といった専門家に相談をしてみましょう。
また当院でも医師やその他スタッフもご相談に乗れることがあると思いますので、大阪市城東区「鴫野駅」徒歩1分のけいクリニックまでお気軽にご相談ください。

 

 

 参考資料

厚生労働省 みんなのメンタルヘルス https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_develop.html

高橋三郎、大野裕監訳: DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院, 東京, 2014

厚生労働省 特別児童扶養手当について https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/jidou/huyou.html