こんにちは大阪市城東区鴫野駅から1分「けいクリニック」院長、精神科専門医の山下圭一です。
今日から2回にわたり、更年期についてお話をしていきたいと思います。
「更年期かしら・・・」という不安をお持ちの方、かなり多いものです。
なんとなくあちこち体調が悪く、内科で検査を受けても検査の結果は異常なし。もしかして、更年期障害・・・?
でも、婦人科で「更年期だね。」ってはっきり言われてしまうのも、怖いし・・・
お気持ちは、とても良く分かります。
ただ、更年期について知り、治療したほうが良い症状であれば治療を、そうでなければ日常生活の中でセルフケアを行い、対処するスキルを向上していくことが、更年期を乗り切るコツです。そのために、更年期のことについて知りましょう。
前篇となる今回のコラムでは、まず、更年期について、更年期に現れる症状について、自分でできるセルフケアの方法について、お話していきたいと思います。
<目次>
- 1.“更年期”とは
- 2.“更年期障害”の検査について
- 3.更年期障害の症状~身体編~
- 4.更年期障害の症状~メンタル編~
- 5.更年期障害の症状~睡眠編~
- 6.男性の更年期障害
- 7.更年期のセルフケア
- 8.まとめ
- 1.“更年期”とは
更年期とは、閉経前5年、閉経後5年を合わせた10年間をさすことが一般的です。閉経の年齢は人それぞれですが、平均年齢は52歳という研究がありますので、40歳半ば~60歳くらいの方が当てはまる可能性があります。更年期の女性で、1年間月経が見られなかったときに、閉経と判断されます。
更年期に“どんな困りごとが起こるか”、“その困りごとがどのくらい大変か”については、人それぞれです。「様々な症状があって、とてもつらい」という方もいらっしゃれば、「ほとんど気づかないうちに過ぎてしまった」という方もいらっしゃいます。
また、年齢や女性ホルモンの数値以外に、環境の変化や心理的なストレスなども、更年期の症状の出かたに大きく関連すると言われています。
- 2.“更年期障害”の検査について
“更年期障害”とは、更年期に相当する時期にあらわれる様々な症状を総称したものです。では、更年期には身体の中で何が起きているのでしょうか?
まず、卵巣の機能が低下することに伴って、エストロゲン(女性ホルモン)の分泌が減少します。すると、エストロゲン(女性ホルモン)が低下したことを脳の視床下部や下垂体は「今までと違うぞ!」と察知して、女性ホルモンを出すように指令を出します。
具体的には、視床下部から性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)が分泌され、それにより脳下垂体から卵胞刺激ホルモン(FSH)と呼ばれるホルモンが分泌されます。ただ、加齢などに伴って卵巣機能が低下している場合は、卵胞刺激ホルモン(FSH)の刺激を受けても女性ホルモンの分泌がどんどん増えるわけではないので、視床下部が頑張り続けることになります。
検査で上記の状態になっているかを調べるには、血液検査を行い、血中エストラディオール(E2)と卵胞刺激ホルモン(FSH)を測ります。E2が低くFSHが高い場合は、女性ホルモンの分泌低下と、卵胞刺激ホルモンの分泌亢進が起こっているということですから、更年期の可能性が高いと考えられるのです。
視床下部は自律神経のコントロールにも関わっているため、頑張りすぎると、自律神経のバランスが悪くなります。そして、自律神経失調症状と呼ばれる症状が現れます。
例えば、胸がどきどきしたり、急に汗が出たり、という症状がよくみられます。
さらに、心理的なストレスも視床下部に影響し、自律神経のバランスが悪くなることに拍車をかけます。なお、更年期以外でも、男性でも、ストレスが引き金になっている自律神経の失調症状というのは、起こることがあります。ただ、女性にとって更年期の、身体やホルモンバランスの変化というのはかなり劇的なものですし、心理的なストレスを抱えやすい時期でもありますので、多くの割合の女性が多かれ少なかれ更年期に伴う自律神経の失調症状を経験しています。
また、女性ホルモンの低下にともなって、血圧が高くなったり、コレステロール値が上がったり、骨粗しょう症が進んだりすることがありますので、これらの検査を行うこともあります。
さらに、“更年期”というには年齢的に若い場合でも、早発卵巣機能不全によりエストロゲンの値が低くなっている時や、子宮内膜症や子宮筋腫の治療のためにエストロゲンの分泌を低下させるような治療をされている方には、更年期障害に似た症状が現れることがあります。
- 3.更年期障害の症状~身体編~
自律神経が失調した際に起こる症状としては、のぼせ(ホットフラッシュ)や発汗、冷え、動悸、などの“血管運動神経症状”と呼ばれるものが有名です。それ以外には、心臓や肺には異常がないのに胸が痛くなったり息苦しくなったりする、疲れやすい、頭痛・肩こり・めまいなどの症状があります。
また、恥ずかしさから相談するのを躊躇される方も多いのですが、排尿障害や頻尿、性交の際の痛みや違和感などでお困りの方もいらっしゃいます。さらに、関節の痛みや手のこわばりが気になる、お腹の調子が悪くなる、皮膚が乾燥してかゆくなる、など、様々な症状が、更年期障害として起こる可能性があります。
これらの症状は、更年期障害以外でももちろん起こることがありますから、年齢だけで「更年期障害だろう」と決めつけずに、つらいときは病院を受診することが大切です。
のぼせ(ホットフラッシュ)や発汗があると、人に会いたくなくなる、外出したくなくなる、など、生活への影響が大きくなることがあります。そこで、適切な治療を受けることで、生活の質(Quality of Life: QOL)が改善することが期待できます。
- 4.更年期障害の症状~メンタル編~
更年期のメンタル面の困りごととしてよくみられるのが、些細なことでイライラするなどの情緒の不安定さと、気持ちが落ちたり意欲が低下したりする抑うつ症状です。それ以外にも、不安になりやすい、記憶力や集中力が低下する、ということに困っていらっしゃる方もあります。
更年期にうつの症状で苦しんでいる方というのは結構な数いらっしゃって、約40%の方に症状があり、更年期障害で外来を受診される方に限ると約60%もの方がうつの症状を伴っているという報告があります。
メンタルの症状については、ホルモンの変化だけでなく、心理的なストレスや環境の変化も大きく関わるとされています。年齢的に、子育て、介護、家族の病気、などが重なることが多い時期であり、自身の体力の低下や老いを感じやすい年代であることも相まって、不安になったり気分が落ち込んだりしやすくなります。
例えば、お子さんがいらっしゃる方は、お子さんが思春期に差し掛かって親子関係がこれまでどおりいかなくなる、親子ともに受験のストレスを抱える、お子さんが独立することによる寂しさなど、平穏に過ごすのが難しい状況の方が多いでしょう。
親御さんも年齢を重ねて、病気になったり介護が必要になったり・・・そしていつかは親との死別というのもやってきます。ご自身や配偶者の方の老いや病というのも、身近になってきます。喪失感を感じやすい時期です。
40~60代というのは、ライフサイクルの中で、色々な課題に直面しやすい時期です。20代30代のように無理は効かなくなり、体力の衰えや加齢の影響を実感しやすくなります。働いていらっしゃる方は、仕事の上での役割や責任の変化のストレスもかかります。
家族の構造や役割の変化が起こりやすい、楽しいことよりも喪失感を感じる出来事が起こりやすい時期と言えるでしょう。
- 5.更年期障害の症状~睡眠編~
不眠も、更年期障害でよく見られる症状の一つです。睡眠は、身体とメンタルと両方に強く関わるため、別でお話していきたいと思います。
閉経の前後から、寝つきが悪い(入眠障害)、途中で目が覚めてしまう(中途覚醒)、朝早く目が覚めてしまう(早朝覚醒)ということを訴える女性が増えるという報告があります。
原因としては、女性ホルモンの変動や、心理的ストレスなど、様々な要素がからみあっています。また、「自分には一日〇時間睡眠が必要なのだ」という思い込みから、本当は睡眠不足ではないのに、「ぜったいに〇時間眠らないとダメ!」という思い込みがあり、睡眠不足だと思って悩んでいらっしゃる方もいらっしゃいます。
さらに、うつや不安が強いと睡眠がうまく取れないことが起こりやすくなりますし、睡眠がうまく取れないことがうつ病や不安障害のリスクを高めることがあります。
睡眠に対するアプローチをすることで、身体の症状が楽になることもありますので、後述するセルフケアで睡眠のためにできることを一つだけでも試してみてください。
- 6.男性の更年期障害
ここまでは、女性の更年期障害についてご説明してきましたが、男性にも更年期障害はあります。正式には、加齢男性性腺機能低下(Late-onset hypogonadism: LOH)症候群と呼ばれます。
原因としてはやはり、加齢に伴う男性ホルモン(アンドロゲン)の低下に、心理的ストレスなど複数の要因が重なって起こることが多いとされています。メタボリックシンドロームとの関連も指摘されています。
検査としては、血中遊離テストステロンの値を調べます。女性の場合のエストロゲンと同じように、男性においてアンドロゲンは様々な機能を担っているため、アンドロゲンが低下すると、筋骨格系、中枢神経系、前立腺、皮膚など様々な臓器の機能の障害が起こりえます。
症状は、女性の場合と類似していて、多彩な身体の症状とメンタルの症状が起こりえます。
例えば、身体の症状としては、筋肉量や筋力の低下が起こり、転倒や骨折のリスクが高まります。性機能の低下で悩まれる方も多いです。最近では、内臓脂肪の増加やメタボリック症候群との関連についても、研究されています。メンタル面では、認知機能、特に記憶力の低下、抑うつ気分、不安感、イラつきに悩まされる方がいらっしゃいます。
男性の40-60代というのも、女性と同じように過程では子育てや介護の悩みを抱えづらく、職場では責任のある立場に就いていて、なかなか弱音を吐けなかったり、気軽に相談できなかったりという状況にいらっしゃる方が多いのではないでしょうか。
- 7.更年期のセルフケア
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なんとなく調子が悪く、「更年期障害かもしれない」と心配だけれど、健康診断や人間ドックでは問題ない。病院に行って一通りの検査を受けたけれど、検査場は「はっきりと更年期とはいえません」と言われた・・・
このような場合は、“治療”の必要まではないのかもしれませんが、自分で自分のことをケアすることができると、つらい時期を少しでも楽に乗り切ることができます。まず、前述したように、睡眠が改善することで、身体の症状もメンタルの症状も改善する場合が多くあります。
- 良い睡眠のポイントとして
- ①光
- ②温度
- ③アルコール
- ④カフェイン
という順番で効果があると言われている取り組みをご紹介していきます。
①の光とは、就寝前に浴びる光に気を付ける、ということです。不眠の原因として、寝る直前までパソコンやスマートフォンをみているという方が増えています。
寝る前には刺激的な光を避けて、部屋の照明を落としたり、間接照明に切り替えたりするのがおススメです。②の温度に関しては、寝る前2時間くらいに湯船に入り、身体の深部体温を上げることが効果的です。体が冷えていると、なかなか眠れないものです。いったん体温をあげて、それが風呂上がりに冷めるときに眠気がやってきやすくなりますので、それを利用して自然に眠りにつけるといいですね。
ゆっくりとお風呂に入るのは、自律神経のバランスを整えるのにも役に立ちます。③のアルコールに関しては、“寝酒はNG”です。寝つきを良くする効果はあるかもしれませんが、睡眠の質を下げてしまいます。アルコールには利尿作用もありますので、トイレに行くために夜中に目が覚めてしまう一因でもあります。寝酒はやめる、晩酌のアルコールも適量を、が原則です。
また、睡眠のお薬を飲んでいらっしゃる方は、お酒と時間を空けずに服用すると、記憶が飛ぶなど、変な酔っ払い方をする危険性がありますので、お酒を飲んだら睡眠薬は飲まない、あるいは、飲酒してから睡眠薬の内服までの時間を空ける、などの工夫が必要です(睡眠薬の使い方については、処方してもらっている医師の意見を確認しましょう)。 - ④のカフェインに関しては、個人差があるのですが、15時以降は飲まないことをおすすめしています。カフェインを摂取しないと眠気が収まらない、集中力が保てないという方は、根本的な原因を解決したほうが良いでしょう。
その他、セルフケアのポイントとして、運動は抑うつの改善、体力をつけて疲れにくくなる、睡眠の質が上がる、高血圧や骨粗しょう症の予防・悪化を防ぐなど、色々な面において、とても効果的です。取り入れやすい形で、通勤の際に一駅余分に歩く、在宅勤務の場合でも1日1回は散歩に出る、家の中でヨガや筋トレなどに取り組む、など、生活の一部になると良いですね。
また、アロマテラピーでリラックス、ツボ押しやマッサージでコリをほぐすなど、自分にとって手軽で気持ち良いと感じられるリラックス方法を持っておくこともおススメです。同じ更年期の世代の方でも、原因や症状は人によって少しずつ違いますので、“この症状があれば、この対処法!”というのが一概に言えない点が難しいところですが、生活の中でできそうなことから取り組んでみましょう。
- 8.まとめ
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今回は、
・更年期とは何か?
・更年期にはどんな症状が起こるの?
・更年期にお勧めのセルフケア
についてご説明しました。繰り返しになりますが、更年期障害以外の内分泌疾患や、メンタル疾患(うつ病や、いわゆる“自律神経失調症”)でも同じような多彩な不調症状が出ることはありますので、検査を受けずに「更年期だから」と決めつけないようにしていただければと思います。
また、当院でも血液検査を実施した上で治療に関してご相談に乗ることが可能です。日々の生活の中で気になる症状がおありでしたら、大阪市城東区「鴫野駅」徒歩1分のけいクリニックまでお気軽にご相談ください。
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次回、後篇では、更年期の症状でつらい時に何科にかかればよいのか、そして病院でできる治療について、ご説明していきます。
あわせてご覧いただければ幸いです。
参考文献
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