コラム

2022.05.15

分離不安障害/分離不安症~大人と子どもの分離不安~

こんにちは大阪市城東区鴫野駅から1分「けいクリニック」院長、精神科専門医の山下圭一です。

“分離不安障害/分離不安症”という言葉は、多くの方にとって、あまり聞かれ慣れないものでしょう。

分離不安とは、愛着をもつ人物からの分離に対する過剰な恐怖または不安です。不安は自然な反応ではありますが、年齢や発達の段階からみて通常の不安よりも程度が大きいと、“分離不安障害/分離不安症”という診断がついたり、治療の対象となったりすることがあります。

例えば、お子さんに以下のようなことはありませんでしたか?

●親から離れるときにとても嫌がる、親や誰かの近くにいようとしてつきまとう
大事な人が死ぬことを考えて心配しすぎる
●迷子になったり誘拐されたり、事故に遭ったりするようなことが自分に起こることを心配する
●一人で出かけることを嫌がる、家にいても一人でいることを嫌がる
●眠りにつくまで誰かにそばにいて欲しいとせがむ

これらは、分離不安のあらわれのことがあります。

大人であっても、恋人や自分の子どもに対して、分離不安を覚えることがあります。相手の居場所を確認しすぎるなど束縛が激しくて逆に嫌われるというようなことは、分離不安が関係しているかもしれません。 

今回は、分離不安障害/分離不安症について、もし自分や子どもが分離不安障害/分離不安症かも?と思った時に、どのような対処をすればよいのかについて、解説していきたいと思います。

<目次>

  • 1.分離不安障害/分離不安症ってそもそも何なの?
  • 2.子どもの分離不安障害/分離不安症
  • 3.子どもの分離不安障害/分離不安症へのケア
  • 4.大人の分離不安障害/分離不安症
  • 5.大人の分離不安障害/分離不安症へのケア
    6.おわりに

 

 

  • 1.分離不安障害/分離不安症ってそもそも何なの?

 

“不安”とは、自分を守るために将来の危険を予期して起こるもので、正常な現象です。 
社会生活上困るような不安に関連した疾患は、“不安症”と呼ばれますが、“不安症”そのものは、子どもや若者によく見られるものです。児童思春期の子供の10-30%にも見られるという報告もあります。
全般不安症と社交不安症など、分離不安障害/分離不安症以外の不安症もあります。これらははっきり区別できるものではなく、症状が重なりあったり、同時に診断されたりすることもあります。

さて、ここからは“分離不安障害/分離不安症”についてみていきましょう。
“分離不安”とは、愛着をもっている特定の対象と離れることを極度におそれることです。多くは養育者、特に母親が対象となります。人間が最初に経験する不安、とも言われています。
先ほど、“不安は正常な現象だ”と述べましたが、 “分離不安障害/分離不安症”と診断されるかどうかのポイントは、発達の段階として適切か過剰か、社会的な機能に差しさわりがあるか、です。

診断基準では、米国精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアル第五版(DSM-5)では、“分離不安障害/分離不安症”が定義されています。 

一部を抜粋してみてみましょう。

分離不安障害/分離不安症をもつ人は、家や愛着をもっている人物から離れる際に、過剰な苦痛を繰り返し経験します。その人が、死んだり、病気になったり、事故に遭ったりしてしまうのではないかと心配します。
その人と離れたくないため、一人で出かけたり、一人で家にいたりすることを嫌がります。家の中でも“つきまとい行動”をとり、眠るときもそばにいてほしがります。頭痛や腹痛、吐き気などの身体の症状を訴えることもあります。
診断基準上は、少なくとも子どもで4週間、大人で6ヵ月、上記のような症状が続いていることの確認が必要です。

 

 

  • 2.子どもの子どもの分離不安障害/分離不安症

 

“分離不安”は不安の一種で、人見知りが始まる1歳から幼児期にかけて、ほとんどの子どもにみられます。
例えば、乳児期には、母親などの養育者と離れるときに泣くという不安を表す行動をとりますね。愛着を感じる人物(多くは養育者、特に母親)からの分離不安があることは、母親などの養育者から離れることを認識できるようになったという証拠であり、正常な発達のプロセスです。

1歳半頃になると、自己主張が始まり、次第に養育者との距離ができてきます。
 ①養育者といつも一緒にいるという段階にはじまり、
 ②養育者がそばにいなくても近くにいれば安心して遊ぶ
 ③養育者が近くにいなくても家にいると分かっていると保育園などでも安心して遊ぶ
というふうに、成長するにつれて、養育者がそばにいないことの不安は軽くなっていきます。正常な“分離不安”のピークは9-18か月で、2歳半辺りまでにはなくなるとされています。
ただ、3歳以上でも、初めて保育園や幼稚園に行くときや、歯医者など脅威を感じる場所に行くときに、一時的に分離不安を呈するのは、正常の反応であり、病気ではありません。
反対に、どのような場合に治療が必要になってくるかというと、年齢が進んでも分離不安が軽くならず、社会的機能の障害が起こりえる場合です。 
小学生になっても、養育者から離れることを嫌がる、学校に不安や恐怖を感じる、頭痛や腹痛などの身体症状も訴える、というようなことが続くと、学業に遅れたり、孤立したりすることを招く恐れがあります。
このような場合は、担任の先生やスクールカウンセラー、かかりつけの小児科医と連携してのケアが必要でしょう。

 

どのような環境で育つ子どもに“分離不安障害/分離不安症”が起こりやすいかというと、養育者が子どものために十分な時間が取れなかったり、親の養育態度が偏っていたり(過保護であったり、反対にネグレクト傾向があったり)、家族関係が複雑であったり、ということが指摘されています。
また、養育者と長い間離れている子どもは、情緒不安定であったり、集中するのが難しかったり、無気力になったりしがちです。引きこもりや登校拒否になる子どももいます。
単に養育者と離れることが悪いという訳ではなく、離れた時の年齢や、離れるまでの養育者との関係、離れることになった理由、なども影響します。その他、家庭の経済的なゆとりのなさや、周囲に構ってくれる人が乏しいことも、子どもや養育者ともに影響を受けることがあります。

発達障害と分離不安障害/分離不安症の関係についても、いくつかの研究があります。 
まず、注意欠如・多動症(ADHD)の子どもは、不安症を抱えやすいという報告があります。また、自閉スペクトラム(ASD)の子どもは、分離不安を示さない場合と、逆に強く示す場合とがあると言われています。

 

 

  • 3.子どもの分離不安障害/分離不安症のケア

 

それでは、子どもの分離不安に対して、どのようなケアをすればよいのでしょうか。

まず、子どもが安心できる環境を整えましょう。いきなり養育者と離れさせるのではなく、徐々に慣れさせる方が良いでしょう。子どもの不安を無視したり、叱責したり、しないようにしましょう。
例えば、養育者と離れるのが不安なあまり、学校に行けない子どもの場合、養育者が一緒に登校したり、授業中も近くにいたりすることから始めることがあります。教室の中で見えるところにいるところから始めて、廊下、隣の部屋、と少しずつ距離を置き慣らしていく、ということを試みることもあります。
そのうちに、養育者がいなくても、気持ちが安定するようになります。いきなり自立させようとするのではなく、徐々に慣らしていくのがポイントです。
また、別れる瞬間のつらさ、なかなか離れられないことに対しては、別れの儀式、例えばハイタッチや握手をする、というようなルーティンをつくることも効果的なことがあります。

お子さんの分離不安を心配される場合、あるいは発達障害や他の不安症も合併しているかもしれないと思われる場合は、まずかかりつけの小児科の先生への相談がおススメです。専門的なメンタルケアの必要性があるようであれば、かかりつけの先生から児童精神科医やカウンセラーに紹介してもらうのが良いでしょう。 

認知行動療法や家族療法などの心理療法も効果的と言われています。年齢や状況にもよりますが、子どもだけではなく親子で行う場合もあります。
環境や行動の工夫をしても社会的機能の障害が続く場合は、薬物療法を行うこともあります。

 

 

  • 4.大人の分離不安障害/分離不安症

 

分離不安障害/分離不安症は、以前は幼児期~青年期に診断されるものとされていましたが、大人になっても症状が続くことがあることが報告されてきました。さらに、子どもの頃には症状がなかった人が、成人してから発症することもあるという説もあります。
例えば、子どもを残してどこかに行くことに伴う不安や寂しさ、罪悪感のような感情は、養育者側の分離不安からくるものの可能性があります。
子どもが小さい時だけでなく、自立しようとする青年期の子どもに対しても、分離不安が起こることがあります。 

分離不安障害/分離不安症をもつ方では、自分の子どもや家族、あるいは恋人のことを、過剰に心配し、離れているときに苦痛を感じやすくなります。また、分離不安の原因となる人物の居場所を確認しすぎることから、人間関係が破たんすることもあります。
対象が恋人の場合、行動を制限したりつきまとったりすることがあります。いわゆる“恋愛依存”の状態です。これは、自分が不安にならないために相手の行動を制限しているのですが、行き過ぎると恋愛自体がうまくいかない原因になります。 

このように、分離不安の課題をもつ大人は、周りに対する要求が過剰なため、人間関係の葛藤が起こりがちです。

この記事をお読みになって、「自分の行動パターンは分離不安からきているのではないか?」「子どもと離れていると不安が大きいのは、分離不安症ではないか?」と心配な方向けに、次のパートで対処法やケア、どこに頼ればよいかを説明していきましょう

 

 

  • 5.大人の分離不安障害/分離不安症のケア

不安になる状況を避け続けることができるならば、良いのかもしれません。ただ、それは現実的には難しいことが多いものです。
それでは、不安とどのように付き合っていけばよいのでしょうか。 

まず、分離不安障害/分離不安症の子どもの対処法として述べたように、安全な環境で、徐々に慣らしていくことが大切です。
また、“自立とは、依存先を増やすこと”という、熊谷晋一朗先生のお言葉が役に立ちます。
お子さんや配偶者、恋人に対して分離不安を抱きやすい方は、友人や他の家族など、ちょうどよい距離の人間関係を広げることが解決につながることもあります。

上記のような対処法は、回復の途中で一時的に苦痛がひどくなることもありますので、自分一人で行うよりは、専門家のサポートのもとで行うのがおすすめです。
専門家のサポートを借りるには、心療内科や精神科に受診する、カウンセリングを受ける、という方法があります。最近ではオンラインに対応しているカウンセラーさんが増えていますから、カウンセリングが身近になってきています。認知行動療法、家族療法など、様々な心理療法が用いられています。
人間関係の調整や、周囲の人の行動を変えてもらう、あるいは理解して見守ってもらう必要が出てくるかもしれませんので、ご家族や恋人の方と一緒に診察やカウンセリングを受けるのも一つの方法です。
不安とともに、気分が落ち込む、眠れない、という症状があれば、やはり医師のもとで、薬物療法を検討する方がよいかもしれません。

 

  • 6.おわりに

 

臨床の現場にいると、近年は、子どもの数が減ったり、治安の問題などから子どもが一人で行動する機会が減ったりしたためなのか、親子の距離が近くなり、分離不安の問題が起こりやすくなっているように感じます。「子どもが生きがい」「子どもを思い通りに育てたい」「いつまでも子どものままでいてほしい」という親御さんは、少し注意が必要かもしれません。
また、以前は子どもの疾患とされてきた分離不安障害/分離不安症ですが、大人にもみられること、社会的機能の障害を引き起こし得ることが、注目されています。 

2020年以降、COVID-19の影響もあり、私たちの生活の環境は一変しました。子育ての環境にも変化が起こり、外部との交流が少ない中で過ごした人々が増えました。コロナ禍で子ども時代を過ごした人が、今後どのような問題を抱えうるのか、まだまだ分からないことも多いでしょう。

分離不安障害/分離不安症は、特に子どもにおいて有病率が高く、他のメンタルの病気を合併しやすいご病気です。ただ、年を重ねることで軽くなったり、すっかり良くなったりすることも多いです。

愛する人と離れているのが不安で生きづらいという方は、大阪市城東区「鴫野駅」徒歩1分のけいクリニックまでお気軽にご相談ください。

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参考文献

Patel DRFeucht CBrown K, et al. Pharmacological treatment of anxiety disorders in children and adolescents: a review for practitioners. Transl Pediatr. 2018;7(1):23. 
高橋三郎、大野裕監訳: DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院, 東京, 2014
基調講演 自立とは依存先を増やすこと、希望とは絶望を分かち合うこと (日本「祈りと救いとこころ」学会 第2回学術研究大会特集 現代人の「祈りと救いとこころ」). 祈りと救いの臨床=Clinical Journal of spirituality and mental health: 日本「祈りと救いとこころ」学会誌 2(1), 38-50, 2016 日本評論社.